第2に、国際交渉の結果である例外規定の設定の在り方について、大きな差異が見られる。日本の場合は、交渉に際して、地方の建設サービスの適用除外の下限をあげることに集中していたようである。日本の地方政府の建設サービスの適用除外の下限は1500万SDRであり(この値は国の建設サービスの適用除外の下限450万SDRより上である)、米国の地方政府の建設サービスの適用除外の下限500万ドルの3倍である。他方、米国においては、政治的な個別品目の除外(石炭、自動車、鉄)を一定の州について埋め込み、交通道路連邦補助金を例外化し、小企業・少数民族企業等に関する優遇措置を例外化した。さらに、小企業、少数民族企業等の定義がなされていないので、米国側はこれらの定義を柔軟に利用することができた。
第3に、米国においては、ウルグアイラウンド協定実施法において、連邦政府が地方政府に対してWTO協定の履行を強制する手段として争訟手続きが整備された。しかし、前述のように、それを実際に用いるのは極めて難しい構造になっていた。
3 地方政府の対応
(1) 具体的対応
ここでは、米国の各地方政府における政府調達の仕組みがどのようになっているのか、また、その中で各種優遇措置や差別措置がどのように制度化されているのかについて明らかにしたい。また、特に、政府調達協定の適用対象となる州における協定実施はどのように行われているのか、また、協定締結・実施における地方政府側のインセンティブは何であったのかについて明らかにしたい。ここでの主たる対象は、WTO政府調達協定対象地方政府であるニューヨーク州政府、カリフォルニア州政府、マサチューセッツ州政府、WTO政府調達協定非対象地方政府であるニュージャージー州政府、ニューヨーク市政府である。そして、最後に、これらの政府調達の現状、政府調達協定への対応についてまとめるとともに、他の州等の一般的動向に関する資料も用いながら、米国地方政府がどの程度WTO政府調達脇定を実際に遵守しているのか、また、どのような点に違反の可能性があるのかについても推測してみたい。
(2) ニューヨーク州(12)
ア 調達の仕組み
ニューヨーク州政府における調達担当部局はOGS(New York State Office of General Services)である。このOGSを調達に利用するのは、州政府の機関に限られるのではなく、州内の各種自治体、学校、消防区も利用することができる。また、ニューヨーク州においては、近年、調達制度の改革の動きが見られる。例えば、1995年には、調達管理法(Procurement Stewardship Act)というものが成立した。その中では、従来の入札の際の最低価格一辺倒に変わり、サービス・技術の調達に関しては目的の鍵概念として「最高の価値(best value)」、すなわち、「質、価格、効率(quality, cost, efficiency)」の最適化が掲げられることとなった。また、調達制度の柔軟性が高められた。
一般的な政策としては、1995年ガイドラインにおいて、2つが定められている(13)。第1に、競争促進が志向されている。その観点から、資格制限は最低限のものとすること(minimum eligibility qualification)、プログラムの要求を明確にすること(identification of programmatic requirements)が求められた。第2に、責任(responsinbility)の確保が志向されている。その観点からは、一定の資格審査(qualification)、財務的安定性(finacial stability)、高潔(integrity)が求められている。そして、その一環として、1995年ガイドライン付表B(Appendix B General Specification for Procurement Contracts)では、規則、ルール、コードに定められた倫理的基準に従うことが求められている。この資格、財務的安定性、高潔の判断に際して、一定の差別的措置が埋め込まれる可能性はある(例えば、高潔の要素として応札企業が人権侵害との関係がないことを求められる可能性はある)。
イ 優遇措置
(ア) 優遇先(Preferred Sources)
特別の社会経済目的達成のために優遇先(Preferred Sources)を指定するという制度がある(State Financial Law Article 11-State Purchasing Chapter 95-Law of 2000 S. 162)。具体的には、矯正施設(Department of Correctional Services(DOCS)Industrial Program:Cocraft)、盲目者向けの非営利慈善団体、重度の障害者のための非営利慈善団体、精神病人のための特別な雇用プログラム、一定の退役軍人の工場が、優遇先となる。優遇先からの調達が可能である場合には、これらからの調達価格が市場価格を15%上回らない限り優遇先から調達されることとなる。ただ、このような調達は総額の1%以下である。