特に大きな役割を実務的に果たしたのは、各州政府の調達部局によって構成される団体であるNASPO(National Association of State Procurement Officials)である。早い段階からNASPOを通して州政府と接触したことは、連邦政府がWTO政府調達協定に対して州政府の一定の理解を得る上で大きな意味があった(6)。USTRの側からいえば、自らの地方における足場は極めて限られていたので、NASPOのような組織に依存せざるを得なかったともいえる。このNASPOにおいて中心的役割を果たしたのはニューヨーク州の調達部長であるモスコビッチ氏(Paula Moskowitz)である。彼女はこの分野を10年以上担当しており、ウルグアイラウンドにおける米欧間の非公式な交渉現場にも立ち会った。
なぜNASPOを巻き込むことが重要だったかといえば、NASPOの基本的立場はコスト削減のために競争入札を志向するものであったからである(7)。従って、NASPOを巻き込むことによって、USTRは州政府内部にWTO政府調達協定の支持者を得ることができた。他方、産業部局の中には、保護貿易的観点から政府調達協定への参加に反対するものも多かった。従って、最終的には、州知事をはじめとする州のトップがどのような態度をとるかによって、州政府の政府調達協定の態度は異なってきた。例えば、輸出産業が強い州の場合(例えばカリフォルニア州、ニューヨーク州)の場合は直接的に外国政府の政府調達開放自体が魅力的であったので、WTO政府調達協定に自発的に賛成する傾向にあった。米国内部の中西部等の小規模な州は対極的な異なる対応をとった。
このような各州の対応の結果として、37州(アリゾナ、アーカンソー、カリフォルニア、コロラド、コネティカット、デラウェア、フロリダ、ハワイ、アイダホ、イリノイ、アイオワ、カンザス、ケンタッキー、ルイジアナ、メイン、メリーランド、マサチューセッツ、ミシガン、ミネソタ、ミシシッピ、ミズーリ、モンタナ、ニューヨーク、ネブラスカ、ニューハンプシャー、オクラホマ、オレゴン、ペンシルベニア、ロードアイランド、サウスダコタ、テネシー、テキサス、ユタ、バーモント、ワシントン、ウィスコンシン、ワイオミング)がWTO政府調達協定に従うことを自主的に認め、その結果としてこの37州が政府調達協定の対象州となった。ただ、州の利害関係だけで各州の態度が全て説明できるわけでもなかった。例えば、ニュージャージー州は経済的利害関係という観点からいえぱ、十分WTO政府調達協定に加わるインセンティブを持っていい州であった。しかし、たまたま、この政府調達協定が議論されていた時点でニュージャージー州は知事選挙の最終であったので、州として参加の判断を下せなかったようである(8)。
イ 政府調達協定における例外規定の設定
以上のように、米国のWTO政府調達協定締結に至る過程では、事前に自主的な合意を得られる州についてのみ対象とするプロセスがとられた。従って、そのプロセスにおいて、各州から対象の限定、例外設定の要望が行われ(例えば州知事の書簡の中で示された)、その結果、対象は各州政府によって異なり、様々な例外規定がおかれるという構造に米国の政府調達協定に関するコミットメントはなっていった。
(ア) 州政府に関する例外設定
WTO政府調達協定の州政府に関する部分(Annex2:付表2)については、いくつかの例外規定が注におかれた。第1に、各州において政治性のある物品については適用対象外となった。具体的には建設用の鉄鋼、自動車、及び石炭の調達については、表に印のついた州(デラウェア、アイオワ、メイン、メリーランド、ミシガン、ニューヨーク、ニューハンプシャー、オクラホマ)は適用除外となった。第2に、停滞地域(distressed area)発展プログラム、少数民族・障害退役軍人・女性所有企業(business owned by minorities, disabled veterans and women)の発展プログラムには、政府調達協定は適用されないことが、付表2の注に明記された。以下の具体的な州の調達制度の説明においても明らかなように、米国の各地方政府においては広範にこのようなプログラムが設定されており、この例外規定はこれらをまとめて対象外とするものであった。第3に、国際の貿易の偽装された障壁にならない限り、環境改善のための制約は妨げられないとされた。第4に、大量輸送機関、高速道路プロジェクトのための連邦補助金(Federal Fund for Mass Transit and Highway Project)が使われる場合には適用されないとされた。
(イ) 一般的な例外設定
以上のような州レベルの例外規定以外に、一般的にも例外規定が設定されている。例えば、小企業、少数民族企業のための優遇措置であるセット・アサイド(set asides)には適用されないとされている。