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類型Iにおいて、協定上の問題点を指摘する主体は、外国政府である。外国政府がこのような指摘をする背景には、当該国の企業からの要望が背景にあることが多いと考えられるが、表面に登場するのはあくまでも外国政府である。そして、外国政府が、多くの場合は在日大使館を経由して、外務省に対して協定上の問題点を指摘する。指摘を受けた外務省は、地方公共団体の調達契約制度を所管する総務省(旧自治省)に連絡し、対応を協議し、その結果、発注機関に事実を確認する必要がある場合や外国政府の指摘に一定の合理性があると考えられる場合等には、総務省から発注機関たる都道府県・指定都市に外国政府の指摘を伝え、対応を検討するよう依頼する。そして、発注機関の検討結果は、逆のルートで総務省を経由し、外務省から当該外国政府へと伝達される。このように外交ルートを活用した協議により、事実確認や協定の解釈の確認等が行われ、外国政府と発注機関の双方にとって合理的な問題解決が図られることとなる。

しかし、このような努力にも関わらず、外国政府が満足できる解決がなされない場合、当該外国政府は政府調達協定第22条の規定に基づき、WTOの紛争処理委員会(パネル)に提訴することができる。なお、わが国の政府調達においては、中央政府や特殊法人を含め、WTOの紛争処理委員会に提訴された事例はない(5)

 

類型II:供給者からの苦情→苦情検討委員会(K県の事例)

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類型IIにおいて、協定上の問題点を指摘する主体は、供給者たる外国企業又は国内企業である。入札手続に関する苦情を持つ供給者は、まずは発注機関に苦情を申立て、両者の協議により苦情の解決が図られることが奨励されている。しかし、第三者でなければ解決が困難な場面もあるため、既に述べたとおり、わが国の都道府県・指定都市においては、政府調達協定第20条の規定に基づき苦情検討委員会が設置されており、供給者は第三者機関たる苦情検討委員会に苦情を申し立てることができる。苦情の申立てを受けた苦情検討委員会は、苦情申立人(当該供給者)及び発注機関に対し、説明や文書の提出を求め、これらに基づき苦情の検討を行い、報告書及び提案書を作成する。このような第三者機関による検討の結果、苦情の解決が図られることとなる。ただし、苦情検討委員会の決定や提案は、法的拘束力を持たない。

わが国の地方公共団体においては、平成12年4月にK県清掃業務等委託の調達において、初めて苦情検討委員会に対する苦情申立てがなされた。これは国内企業からの苦情申立てであったが、当該苦情申立てが苦情の原因となった事例を知り得たときから10日以内に行われなかったことを理由として、結果的に申立ては却下されている(6)

類型Iと類型IIの違いを整理すると、類型Iにおける主役は外国政府であったが、類型IIにおける主役は外国企業を含む供給者である。そして、類型Iにおいては、外国政府からの指摘に対応するのはわが国の中央政府であり、最終的に当該外国政府はWTOの紛争処理委員会(パネル)に提訴することができる。なお、WTOの紛争処理委員会に提訴できるのは協定締約国政府だけであり、供給者が直接に提訴することはできない。

これに対し、類型IIにおいては、供給者からの苦情に対応するのは、発注機関たる都道府県・指定都市であり、さらには第三者機関たる苦情検討委員会である。この場合、苦情検討委員会に苦情申立てを行うことができるのは、供給者だけであり、協定締約国政府が苦情申立てを行うことはできない。また、苦情の処理を行うのは、あくまでも発注機関ないしは苦情検討委員会であり、総務省(旧自治省)や外務省等の中央政府は苦情処理の過程に登場しない。

 

 

 

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