ウ 地方分権及びサービス事業者の多様化とサービス水準の確保
地方分権が推進される中で、社会福祉サービスについても地方公共団体を主体として、その裁量を広く認めるべきとの流れがある。介護保険制度についても、原則、保険者は市町村とされており、各市町村は住民参加によってサービス給付と保険料負担を議論した上で、介護保険事業計画を策定し、地域の介護サービスの中核を担うこととされている。
この意味で、介護保険制度は「地方分権の試金石」とも呼ばれているところである。また、一方、前述のとおり介護保険については、サービス事業者の多様化が期待されているところである。
しかしながら、90年代のスウェーデンにおいて、このような地方公共団体への権限委譲、民間委託及びサービス事業者の多様化の流れの中で、障害者団体を中心に「個人の権利が地域議会の気まぐれに見殺しにされる」という主張がなされたことも見逃すことができない。このような主張がなされたのは、地方税が介護サービスの主財源となっているスウェーデンでは、地方公共団体の財政が窮迫してくると、社会福祉サービスが削減され、地方公共団体間のサービス格差が顕著になるという問題があったためである。
また、サービス提供者が多様化する中で、サービスの質の管理をどのように行っていくかという議論も行われた。
そのような状況の中で、スウェーデンにおいては、高齢障害者を含む障害者の人権の確保、ナショナルミニマムの確保の観点から、障害者のさらなる権利擁護のために「機能障害者を対象とする援助およびサービスに関する法(LSS法)」が制定された。
同法においては、地方公共団体が提供すべき10項目のサービスが規定され、さらに同法の遵守を保障するために障害者オンブズマンが設置された。
我が国においても、地方公共団体への権限委譲及びサービス事業者の多様化の中で、障害を持つ人が最低限のサービスを享受するためには、どのような仕組みが必要なのか今後も引き続き検討していく必要がある。