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第3項 海・漁業体験教室の必要性

 

・こども達のみではなく、親や教師といった世代でさえ、自然との接触や実体験も薄く、体験的学習の機会が全くない時代となっている。

・貴重な経験や思い出を与える場、あるいは人間教育の場として、海・漁村はあらゆる点で格好な場所である。

・海における楽しみ方や漁村の生活習慣の良さなどを体験、理解させることが海事思想の普及となり、同時に水産振興に繋がることになる。

・そのことが、都会と漁村の人達との相互の誤解や軋轢を取り除くことにつながり、海・沿岸域における各種トラブルを解決させ、長じて海・沿岸域の総合的活性化の推進への道となる。

 

わが国国民の精神構造は、高度経済成長期を境に大きく変わった。それ以後、経済的価値が最重要視されるようになり、核家族化の進展とともに競争社会に変わり、それと相反するように自然との関係が希薄となり、家庭と職場が乖離していった。こども達はアルバイトはするものの、家庭のなかで手伝うこともなく、近所の年令が異なる子供たちで遊ぶこともなくなった。数えあげれば切りがないほどに子供が育っていく環境は激変した。そして、こども達は、生活としての体験・体感の実感が持てないまま成長していく。そうしたことを反映してか、最近では若者が渦中となったまさに心を痛める事件が連日の如く発生している。

昭和40年代に産まれた子供達が、いま40歳代となり、小・中学生の親として、教師として、家庭や職場など社会の中堅的地位にあり、その原動力となっている。いまやこども達のみではなく、親や教師といった世代でさえ、自然との接触や実体験が薄く、昔であったら当たり前の遊びや家の手伝いなど体験的学習の機会が全くないといういびつな社会背景を持った時代になっている。

人間として、特に成長期にあるこども達が、自然と接することにより「美しい、すばらしい、おいしい」と感動してもらいたいという願いは、万人共通のものである。また日常生活においても、各種行事や祭りなどを通して地域社会のなかに、楽しく、面白く身をゆだねる機会は極めて少ない。そのため若者達のライフスタイルが、画一的で没個性、平凡で短絡的かつ机上論的な価値観や生活実感しか持てなくなっている。いうならばバーチャルやマニュアルの世界だけで夢見ているのである。こうした社会現象には、誰もが漠然とした不安を感じており、地に足のついた堅実な生活感溢れるものとなるように願っていることも事実である。

こうしたことを踏まえて、最近、文部省ではこども達の教育に対して、地域住民の協力を得た形で支援体制を再構築しようとしている。これまで教育委員会や警察などの行政に任せてきたものを、もう一度地域住民の力を借りながら、社会的秩序・社会的ルールを取り戻そうということである。地域におけるしかるべき指導者とそれを支援する体制、あるいは住民活力や民間活力を崩壊してきたことの反省がなされている。

一方、海レクの現場を見ると、ゴミや騒音問題など環境問題やモラル低下など地域住民への配慮に欠け、利用者側の自己中心的な風潮が強く感じられる。遊漁などでも釣果や魚体の大きさばかりを競うことが多く、決して地域文化への関心力塙いとはいえない。遊漁者も漁業者も同じ対象の魚を、一匹でも多く狙っている現状では、永遠にトラブルは絶えない。日本人の海レクが、決して経済的豊かさや精神的余裕を持ったものではないことを表している一旦である。

こうしたことの解決策はなかなか難しいが、あえて言及すれば、漁業者側からルールをつくり、きちんとした情報発信がもっと豊富にあればと思われる。

 

 

 

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