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4] 受益と負担の関係の明確化

政治学者ダウンズによる個人の合理的な行動についての議論によれば、行政サービスについては、民間財に比べて「合理的な無知」という現象が生じやすいとされる。

すなわち、現代の政府が供給する行政サービスは非常に複雑であり、これらについて熟知することは困難であり、その情報を得るには時として大変なコストがかかる。しかも個人の及ぼす影響力は小さく(有権者数分の1しか影響力を行使できない)不確かなため、情報収集とそれに基づく行動のコストが、その結果得られるベネフィットよりも小さくなりやすく、(ベネフィット)-(コスト)を最大化するためには、行政サービスの情報収集を積極的に行わない方が合理的だということになってしまうのである。

こうした現象を生じさせないためには、納税者が行政サービスを意識しやすいように、税負担あるいは受益者負担の水準を通じて個人に対し行政サービスに関する情報が適切に与えられるようにすることが必要である。

また、ブキャナン=ワグナーの議論によれば、複雑で間接的な負担構造は、単純で直接的な負担構造よりも高い水準の財政支出をもたらすような財政錯覚(楽観的財政錯覚)を生み出すとされる(なお、消費税は、間接税ではあるが最終的に個人の負担に帰着することが明らかなので、ここで言う「間接的な負担構造」には当たらないと考えられる。)。複雑で分かりにくい予算も、財政錯覚を生じさせる。

この議論に従えば、税源を分散させて、零細な税を多種類集めて<るような構造は財政錯覚を引き起こしやすい。逆に、課税対象をあまり分散させずに一定の課税対象に対して深く負担を求めていく方が、納税者が負担を感じやすく、財政錯覚を生じにくいとされる。

このように、財政錯覚を避ける観点からは、単純な税制が望ましいという考え方が導かれる。

しかし、現実の税制の設計に当たっては、税収の安定性及び多様な行政サービスに対応した公平性の確保という観点から、ある程度は多様な税目が必要である。また、地方税を応益原則から捉える場合には、地方の公共サービスには準公共財的なものが多いので、多様なサービスに対応して多数の補完的な税目が必要になるのではないかと考えられる。

 

 

 

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