4 考察
(1) 都心居住推進の論拠に関する考察
以上の調査結果や分析を都心居住推進の論拠に照らして考察する。
◎都心居住の論拠(本報告書「第二部 総論」参照)
a 現在の都心の人口減少スピードが速すぎることが問題であるとする視点
1] コミュニティの崩壊
2] 学校教育への影響
3] 近隣商業・サービス業の活力低下・衰退
b 都心の現状の人口レベル(又は人口減少を放置した場合の将来人口レベル)が適性水準より過少であるとする視点
1] 職住接近による通勤の社会的コストの低減
2] コンパクトシティの形成によるインフラ整備・市民サービスのコスト低減
3] 都心の安全確保
4] 都心の多機能化による都市の魅力や活力の向上
広島市の人口の動向を見ると、都心の人口は減少しており、15年前の約9割になっている。その動向は、平成に入り減少率が一時大きくなり、平均年1%程度の減少が続いたが、近年減少率は低下している。年齢階層別には、全市において少子・高齢化が進んでいるが、都心ではその傾向が著しい。町丁目や小学校区といった小地域で見れば、人口減少や少子・高齢化が他地域と比較してより進展している地域もあろう。そうした地域では、人口減少に伴う活力の減退の影響を直接受けることになる。その意味で、人口減少のスピードを問題にするaの論拠は、地域的な課題と捉えることができよう。アンケート調査で、都心居住者の方が居住と都心の活性化に着目していることにもその一端が現れているのではないか。
しかし、現在の都心のコミュニティ(特に中心業務地域)の地域は、過去の経緯を継承しており、非常に狭い。地域が狭ければ、人口減少の影響を大きく受けることになる。活性化のためには、まず、コミュニティの再編が必要であろう。また、最寄り商業・サービス業においても、時代の変化を捉えて、都心に相応しい業態に転換する必要があろう。特にAエリア(中心業務地域)では、土地利用として高次の商業・業務機能が優位になり、過去のような居住人口の集積を期待することは困難である。コミュニティ自体が、まず時代の変化への適応を考える必要があろう。
一方、現在の広島市の人口密度分布からは、都心においても相当の人口が定住していることが見てとれる。また、通勤時間も30分以内の者が約55%、1時間以内の者が90%強であり(平成5年住宅統計調査の通勤時間調査結果)、3大都市圏と比較して、職住が近接していることが示されている。こうした居住状況を見ると、社会的費用最小化や都心の多機能化から見るbの論拠は、都心居住推進の論拠にはならないと考えられる。