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以上のような現状からは、都心居住推進を直接的な課題として捉える論拠は乏しい。むしろ、都心も居住地の一地域と捉え、アンケート調査で出されたような、都心居住に相応しい居住環境や周辺環境を整備していき、これを通じて、多様な人々の居住を図っていくことが望ましいと考えられる。

 

(2) 中長期的な視点からの考察

広島市は、戦後、都市化・郊外化を繰り返しながら、市街地(人口稠密地域)を拡大してきた。戦災復興とともに、戦前の都心(概ねAエリア)への人口・商業・業務機能の集積が進展し、同時にその周辺(概ねBエリア)の農地を宅地化していった。さらに都市圏や経済圏を拡大させながら、高次の商業・業務機能や都市機能がもとの都心(概ねAエリア)に立地し、商業・業務機能への純化が進展した。また、量的に拡大した商業・業務機能は、周辺に外延化し、住宅・商業・業務の混在地域(概ねBエリア)を形成した。こうした過程の中で、居住と商業・業務機能が一体化した職住一体・職住近接の居住形態から職住分離が主流となり、都心から居住の視点が徐々に薄められていった。このことは、アンケート調査において、Aエリアは、居住地としてマイナスイメージが強く出ていることに見られる。

一方、Bエリアは、Aエリアより「自然」の点で高い評価を得ている。しかもマイナスイメージはAエリアより少ない。Bエリアは、「都心の利便性」と「自然」の共存する地域として、この両方の要素を求める居住者に相応しい環境を提供できる可能性がある。

都市計画によって、いずれにしても、市街地形成の大きな方向性や土地利用は位置付けられており、この枠組みの中で、人々が住み易いまちを目指すのか、仕事や商売がし易いまちを目指すのかなど、まちに関わる人々がまちのあり方について考えることが必要であろう。居住人口を増加させるためには、住宅を供給するだけでは十分とはいえない。人々は、住宅規格や種別だけでなくそれを取り巻く環境を評価して住居の選択を行っている。したがって居住を推進するためには、人々に選択される環境を整える必要がある。そのためには時間がかかり、中長期的な視点が不可欠である。

アンケート調査からは、「子ども」、「自然」、「車対策」の3つの要素が居住地域として選択される条件として導かれている。施策として、車の規制による大気汚染・騒音の防止や交通安全、河川や河岸の環境の整備により自然との触れ合いや遊びの場の提供が考えられるであろう。

こうしたまちづくりのためには、商業・業務機能の従事者と居住者の協力が不可欠である。まちづくりの目標として、居住推進を目指すならば、住み易い環境のためにどのようなことをすればよいのかを地域の関係者が協力して考えていく必要がある。こうしたまちづくりの中で行政施策は有効に機能していくことが期待できる。

 

 

 

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