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いずれにしても、居住地として都心を選択する都心回帰の流れはすでに始まっているといえる。それを受け止める受け皿をいかにして用意するか、また、都心居住の新たな動きを都心のさまざまな機能といかに融合させるかが今後の都心居住政策の課題である。ここでは、そのための3つの視点と政策の方向性について考察して本稿のまとめとしたい。

先ず第一は、居住者の量の問題ではなく、これから誰がどのように都心に住んでいくのかという個々の居住の中身・質を問題とする視点、いいかえれば生活者の視点についてである。

前述のように、都心部における単身世帯、高齢者世帯の増加が顕著である。しかし、これは数だけでいえば全市的な傾向に先行しているだけの現象であるともいえる。むしろ都心部で特徴的なのは、職住近接を志向する子育て共働き世帯や転勤による単身赴任者、郊外で子育てを終えて都心へ戻ってくる熟年夫婦などの動向である。また、定量的には把握できないが、都心部の文化的環境を好む若者や教育環境を選択理由とする世帯も多いと考えられる。

このように多様な価値観やライフスタイルをもつ居住者のニーズを的確に捉えて今後の都心居住政策に反映させることが重要である。

第二点目は、商業・業務の中枢機能や交流機能の集積といったメリットを生かした産業振興の視点を都心居住政策に持ち込むことである。

すでに都心部には、情報関連、出版、デザインなどの都市型産業が集積しつつあるが、今後は、それらと関連させた居住形態やサービスの提供が必要となってくる。

例えば都心核の南に位置する大須地区には、パソコンショップなど情報関連の業種が集積し、都市圏随一の電脳商店街となっているが、この周辺にソフト関連のベンチャー企業が立地する傾向にある。また、都心核の東側の旧城下町の部分でも、古い木造住宅をスモールビジネスの事務所として活用するケースが出現している。

都心部における労働生産性は、他の地域に比べて高いといわれているが、このような地区において都心居住を促進することでさらに生産性を高めることが可能になるだけでなく、都心居住者をターゲットとする労働集約型の産業にとっても顧客を増やすことができるというメリットがある。

 

 

 

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