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また、女性や高齢者の就業を促進するような就業環境の整備をはかることでさらに相乗効果を生むものと考えられる。

このように、都心居住政策のなかで既存の産業政策の枠に属さない新たな産業振興策を組み込むことは、都市の活性化策としても重要である。

第三点目は、都心部での住宅について、既存のストックをいかに上手く活用するか、また、いかに新たな良質のストックを形成するかといった視点である。

都心部のなかでも旧城下町は、伝統的な歴史・文化が息づいており、明治から昭和初期の近代建築物が一部に残っていたり、江戸時代からの伝統である山車を持つ古いコミュニティが今も存在している。このような古き良きストックを活かしながら、新しい時代の要請に応えて変化するものといかに融合をはかっていくかが課題である。

また、今後の都心の住宅を考える上で重要なのは、都心の代表的な居住形態である分譲マンションの老朽化が進み、改修・建替えの問題が顕在化すると予想されることである。特に初期のマンションで管理体制が不十分で、計画的な修繕が行われないケースもみられ、10年後には社会問題化することが危倶される。

そのため、都心部の既存の住宅ストックを有効に活用することができるような方策、例えば、マンション管理への支援の充実、住み替えを促進するための中古住宅市場や住宅情報提供の充実などが今後の課題である。

最後になるが、冒頭でも述べたように都心居住政策というものは、ハードもソフトも合わせて総合的であるべきである。そこでは、行政が直接手を出せる部分はそれほど大きくなく、ほとんどが民間による住宅供給や都心の魅力創出であったり、そこを居住地として選択する市民のパフォーマンスによるものであり、それらをいかに上手に誘導するかが行政の大きな役割となる。

本市では現在、名古屋駅周辺のまちづくりについて長期的なグランドビジョンの策定に着手するなど、新たな世紀にふさわしい都心部のあり方を模索している。その中で都心居住については、中心的テーマのひとつとして位置付け、本稿で考察した内容を市民・企業に分かりやすく魅力的なビジョンとして具体的に示してまいりたい。

 

 

 

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