これらのうち、多中心核都市構造の形成と都心周辺部等への居住誘導という目標が、次のように居住地の配置の問題と密接に関連している(図7)。
札幌は、都心からほぼ同心円的に市街地が拡大するという都市発展の歴史をたどってきた。その結果、都心への一極集中による弊害が懸念され、その回避のため、従来から市民の生活拠点(地域中心核)を随所に配置する多中心核都市構造の形成を目指してきた。今回の総合計画では、その構造を構成する拠点として、都心、地域中心核に加え、隣接都市をも後背圏に持つ「広域交流拠点」と、新たな産業振興や都市文化の醸成をリードする「高次都市機能拠点」を設定し、それらの育成・整備により、札幌の魅力、活力を高めていく都市構造の形成を目指すものとした。
このことは、「都心機能の維持、向上」、「隣接都市との均衡ある発展」、「生活の利便性の確保」、「交通公害の抑制」に加え、災害時の都市機能の代替性確保や被害軽減、復興力の向上などによる「防災性の向上」の観点から必要であるとした。
これらのうち、「広域交流拠点」と「地域中心核」は、前述したシアトルのアーバンビレッジに近い概念として、居住機能と生活関連機能とが高度に複合化した拠点の形成を目指している。さらにそれらの多くは、大量系公共交通機関の駅周辺とし、人々の移動手段として公共交通依存型の都市構造とすることを意図している。
また、都心周辺の「居住促進ゾーン」は、都市居住の利点を大きく享受し得る住宅地としての再生を目指し、パートナーシップ型のまちづくりを基本に、共同・協調立て替えやきめ細かな都市基盤施設整備の積み重ねによる修復型の市街地整備による居住環境の改善を進めることとした。このゾーンは、前章で都心居住者として行動特性を見た都心コアから3km圏とほぼ一致している。すなわち、前章で検証した諸点も加味し、ここでの居住誘導の必要性が次の5点にあるとして、今回の総合計画に位置付けたものである。
ア 社会資本整備や公共サービス提供に係る社会的費用の低減
既存の都市基盤を有効に活用するとともに、市街地の拡大に伴う社会資本の投下や公共サービス経費の増大を抑制することが必要である。
イ 居住選択性の確保
ライフスタイルの多様化や少子・高齢化の進行に伴い、居住機能が多様に提供されることが求められる。特に、生活の利便性や冬期間の快適性が確保された地域への居住ニーズがますます高まると見込まれることから、こうした居住機能の確保が必要である。
ウ 生活の質の向上
市民意識の多様化、高度化などに伴い、自由時間の増大や、多様な都市サービスの提供による生活の質の向上が求められる。このため、通勤時間などの短縮や人口密度の高い市街地の形成が必要となる。