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(3) まとめ

以上の検討から、都心居住の促進を全国画一的に正当化する論拠はなく、各都市の現状と将来像を踏まえた政策判断が必要である。

激変緩和措置としての都心居住維持施策を正当化しうる論拠としては、上記(2)Aにあるように、コミュニティ崩壊や学校教育への影響、近隣商業・サービス業への影響を防止するべきという論拠があるが、もし激変緩和を政策目的として施策を講ずるのであれば、期間を区切って時限的に施策を講ずるべきであり、現在行われている都心居住推進施策にこうした時限的施策があまり見られないことからも、既存の都心居住推進施策を正当化する論拠としては若干弱いものと思われる。

中長期的な都心居住推進施策の論拠としては、上記(2)Bの諸点が考えられるが、1]の職住接近や2]のコンパクトシティ形成といったマクロ的論点により施策を正当化するためには、その施策がマクロ的に影響を与えうる程度の相当程度の都心居住促進効果を有することが必要であると考えられる。また、郊外居住・都心就労という現在多く見られる都市構造を根本的に変えていくとすれば、相当な財政支出や合意形成のための手間など調整費用を要するが、それではどのような都市構造のあり方が適切であるか、個々の都市における検討が必要であろう。

また、Bの3]、4]については、各々の理由だけで都心居住を推進する理由にはなりえず、他の理由と合わせて都心居住を正当化する可能性があるにとどまるのではないか。

 

他方、上記の論拠から、一定範囲・一定程度の都心居住推進施策を正当化することは可能であると考えられる。特に、以下のような都心居住施策は、施策の費用便益分析の観点からも、正当化しうるように思われる。

a. 地理的に人口流出の激しい地区に限定して、施策実施期間も時限的なものであることを明確にした上で講じられる「激変緩和措置」としての都心人口流出緩和施策

b. 超長期にわたって、財政支出を余り伴わずに(例えばゾーニングの変更、容積率の緩和、定期借家の促進等により)、都市構造をマクロ的に職住接近型・コンパクトシティに変えていく都心居住施策

ただし、上記a. b. の場合についても、a. については、公平性の観点からの検討(特定地区の利益の為だけにいかほどの激変緩和措置を講ずることが地方公共団体全体の観点から見て正当であるかという検討)が必要であろうし、b. については、例えば、ゾーニング規制は地方公共団体の財政支出は伴わないものの土地所有者から見れば財産権の規制であることに注意が必要であろう。

 

 

 

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