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特に、都市を新設する場合に、都心居住による職住接近を実現するか、郊外居住・都心就労にするかを、経済モデルでシミュレーションすると、比較的容易に都心居住の方が望ましいという結論が導かれる。しかしながら、わが国の大都市の現状のように、既に相当程度、郊外居住・都心就労の人口が集積していることを前提として、どの程度の財政支出により都市構造を職住接近型に変えていくことが、正当化されるかどうかは今後、さらに定量的な分析を進める必要があるのではないか。

また、職住接近による通勤の社会的コスト低減を図るためには、相当程度の都心居住を実現することが必要であり、財政支出の結果、都心人口を微増させる程度の効果しかないのであれば、こうした政策のコストパフォーマンスは相対的に低いものとなろう。

 

2] コンパクトシティの形成によるインフラ整備・市民サービスのコスト低減

人口が分散して居住するよりも、コンパクトな市街地に集住した方が、街路、下水管の整備やゴミ収集コスト等が節約できるという考え方。

1] と同様、経済的効果を計算しやすい一方で、郊外居住・都心就労の現状を前提としたときに、現状を大きなエネルギーをかけて変えていくことを正当化できるかどうか、仮に多大なエネルギーを投入したとしてもマクロ的に意味のある程度の都心居住が進められるのか、については議論が必要であろう。

 

3] 都心の安全確保

都心に居住者がいることで、夜間も街に人気(ひとけ)が維持でき、その結果、都市の防犯性が高まるという考え方である。米国では都心部空洞化による犯罪の増加が現実の問題となっており、都心居住の論拠としてよく例示される。わが国においても、近年、都心部での犯罪増加が懸念されており、将来的には重要な視点の一つになるものと思われる。

 

4] 都心の多機能化による都市の魅力や活力の向上

オフィス機能、商業機能、文化機能等に加え、一定の居住機能をもつことで、魅力と活力を有する市街地を形成することができるという考え方。多様な機能が雑居していることが都市の魅力と活力の原点であるという主張は理解できる。ただ、定量化した検証が困難であるため、21世紀の都市のあり方として、このことを都心居住推進の根拠とするためには、更なる研究が必要である。

 

 

 

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