しかしながら、その対応策として、人口の自然減や社会的転出増を新規の転入者で補って人口レベルを維持するだけでは、転入者が既存のコミュニティにとけ込めるかどうか分からないことから、この論拠をベースに都心居住施策を進めていく上では、既存居住者の流出防止をするのか、それとも流出を補う形で転入増を図るのか、後者の場合どのような転入者をターゲットにするのか(例えば既存居住者の血縁者等)、どうやって転入者を既存のコミュニティに誘っていくか、といった戦略の検討が必要となろう。
また、「既存のコミュニティを維持する」という課題が、当該地区の居住者の利益であることは明らかであるが、地区を越えて、都市全体の政策目的たりうるかは、特にその対策に多額の財政支出を伴う場合には、都市の活力創出という観点から都市全体の利益になり得る施策であるかどうか個別の検討が必要であろう。
2] 学校教育への影響
都心部の人口減少によって、児童生徒数が減少し、小規模校が発生したり、学校の統廃合が必要となる等、行政コストや教育の質の観点からこれを問題であるとする論点。統廃合に伴う地元合意取付の困難や既存校舎の遊休化等、まさに「調整費用」問題が発生することは事実であるが、激変緩和措置を超えて、中長期的に都心居住を促進する理由にはなりにくい。
3] 近隣商業・サービス業の活力低下・衰退
都心部の人口減少による中心市街地商店街への影響を懸念する声は非常に強く、実際、中心市街地における近隣型商業・サービス店舗の衰退の主因の一つが、近隣人口の減少であることは間違いない。しかしながら、近隣型商業・サービス業の顧客が近隣居住者であるからといって、政策的に既存商店街の近くに人口を維持するということが中長期的に経済効率等の観点から正当化されるか否かは検討が必要であろう。
B. 都心の現状の人口レベル(又は人口減少を放置した場合の将来人口レベル)が適正水準より過小であるとする視点
1] 職住接近による通勤の社会的コスト低減
郊外の住宅地から都心の勤務地に長時間かけて通勤することによる通勤者の時間損失、交通混雑を緩和するための追加インフラ投資等を、都心居住による職住接近により解消するべきという考え方。更には、通勤に伴う環境負荷(自動車の排気ガス等)の低減を強調する論者もいる。経済的損失を計算しやすいことから、経済学者が都心居住を論じる際に論拠とすることが多い。