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ある一定の条件―(Williamson, 1995)によって、理論的に明確に特定され、もっとも影響力を持っている条件―下では、ヒエラルヒーの方が市場より好ましいかもしれないが、この議論においてウェイトが置かれていたのは、公共部門内部の関係を‘市場化’する機会はこれまで予見されたことがないということだ。実際、「分権化」や「権限の付与」といった言葉がその暗示するところにおいて議論の余地なく肯定的な意味を持ってきたように、「ヒエラルヒー」や「ヒエラルヒー的な」といった語は―少なくともNPM関連の議論においては―常に否定的な意味を持つようになった。ヒエラルヒー的関係が議論の余地なく残存しているかぎり、「職員」(古くさい、ヒエラルヒー的な言葉で言うなら「部下」)が「指揮者」(上司、上役)に、所与の期間内に、あらかじめ定められたコストにおいて、明らかにされた出力(成果)セットを与えることに合意した場合には、それを契約的なものの中に盛り込もうとする試みがあるかもしれない。そういうわけで、NPMにもっとも熱を入れている国では、市場と疑似市場による調整や契約化が、ヒエラルヒー的調整に取って代わられる状況が広範にわたり、見られてきた。たとえば、ニュージーランドでは、省庁を指揮している最上級行政官がその大臣との間の年次契約的な取り決めに合意することにより、その大臣と最上級行政官の政府が目指している成果に結びつくと思われる特定の出力(成果)をあげることを約束する。大半の国では、契約化は、大臣/最上級官僚の命令系統の高い国にはそれほど浸透しなかった。しかしながら、オーストラリア、ニュージーランド、イギリスでは、それより多少下ったあたりで契約化も市場化も広く普及しているし、それより普及度は低いにせよ、カナダやスウェーデン、アメリカ合衆国もまたしかりである。こうしたことは、前節で言及した専門化の方法の多くと相並んで、進行してきた。それゆえ、たとえばイギリスの1991年以前の地方保健局は地元の病院に対して指示を与えることができたかもしれないが、1991年以降の「供給者市場」では、法律上の独立法人―NHS信託、以前は「直接管理されていた」病院の後身―との間で、定められた医療サービスについて契約を結ぶことになった。以前はヒエラルヒーによっていたイギリス国民医療制度は、契約によって結ばれた購入者と供給者に特化した。この普遍的論理について、もっと詳しく説明しているのが、カナダ特務機関(Canadian Special Operating Agencies)である。

 

SOAは、他国の政府や大企業が採用したのと同様の組織形態と同じ理論的モデルを基礎にしている。このモデルはヒエラルヒーよりは契約に近く、全体のうちの個々の単位に、より大きな自治権を持たせ、かつ資源配分のために中央の決定より市場メカニズムに依存する(Auditor General of Canada, 1994, p.2)。

 

こうした契約や準契約の関係は、行政法の関連分野の不適当さを懸念した法律論の専門家(Harden, 1992)と、役務提供者の方が購入者および/もしくは使用者より情報を持っているという条件下で「完全な」契約書を書くことの困難さを指摘する行政学者(『Le Grand and Bartlett, 1993』双方の学術的関心を喚起した。

 

すべての国が、ニュージーランドやイギリスのように、MTMと契約主義の可能性に熱狂したわけではなかった。ドイツやフランスでは、こうした方策はもっとずっとわずかしか用いられなかったし、北欧諸国でさえそうだった。これらの国では、限られた局地的な試みの方が、部門すべての徹底的な市場化より、特徴的だった。

 

 

 

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