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‘専門化’。広範にわたる多目的の組織を選好する場合と、これとは対照的に先入的に目的が絞られている専門化した組織を選好する場合とが交錯しているのが、行政に関わる見解の顕著な歴史的特徴である。専門化は優良な行政の基本だという考えの支持者を、時代をさかのぼって探すなら、アダム・スミスやジェレミー・ベンサムに行き当たる。この反対の学説―統合こそ優良な行政である―を発展させたのは、なんといってもサー・エドウィン・チャドウィクやカール・マルクスである(Hood and Jackson, 1991, pp.114-16)。両者の間で揺れる振り子の周期は1世代以下のこともあり、イギリスの中央政府は、大規模で多目的な中央省庁から(1960年代後半から1970年代前半に、労働党と保守党と双方から好まれた)、専門特化した出先機関という、小規模で比較的目的が絞り込まれた省庁という現行モデルに至る変遷を経験した(Pollitt, 1984; O'Toole and Jordan, 1995)。

 

1980年代を通して、世界的な選好の揺れは専門化の方に向いていたし、それは組織設計の問題の解決を図るためにミクロ経済を適用した国々ではきわめて明瞭だった。これは、あらゆる―ミクロ、中間、マクロ―レベルで起きた。それゆえ、ニュージーランドでは、「単一目的の組織を選好しつつ、潜在的に矛盾する機能を分離独立させた結果、機能的に特異だが、それでも相互依存の関係にある複数組織が生まれる事例がいくつか、もたらされた」(『Boston, et al, 1996, p.88)。本書を執筆中の現在、この揺れは最大限に達した後、元に戻りはじめている。ニュージーランド政府のサークルでは、少人数の多数の省庁を持つことの不利益について、さかんに議論が行われた。

 

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中央政府から視点を移して、その他の公共機関を検討するなら、傾向は、より明確ではないにせよ、似たようなものである。本書が選んだ十ヶ国の大半が、自国の公共部門の範囲内の営利活動や営利活動になる可能性のある活動に、はっきり識別できる組織形態を与えようとして急いだ。もちろん、とくにニュージーランドやイギリスでは、極端なことに大規模な民営化も行われたし、それほどではないにせよ、フランスやオランダでもなかなか極端な民営化が行われた。これ以外の国では第一に民営化が行われることは少なかったが、それでもドイツ、スウェーデン、アメリカ合衆国は選択的な民営化が行われた(詳細については付表「国別資料」、Pollitt, et al, 1997を参照のこと)。正真正銘の民営化は不十分でも、多くの国々ではその他の、専門的な法人組織という形―たとえばフィンランドの国営企業や国有会社や、ニュージーランドの国有会社―が創作された。これらのうちにはずっと存続しているものもあるが、それ以外は完全な民営化の途中の準備段階として機能した。

 

 

 

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