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表4.3 会計の軌跡

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複式簿記への移行は、この状態からの重大な変化となった。これによって、公会計は民間部門のモデルに近づいた。どの取引も二回―一度目は貸方に、二度目は借方に―記帳される。たとえば賃金が支払われると、総額が貸方項目として組織の中央現金勘定に記載され、これと同時に借方項目として、賃金勘定に記載される。このアプローチは、組織は分離独立したもので、その総資産は、定義により、資本とその負債の和に等しくなければならないという考え方に立脚している。このアプローチは、現金ベースの会計より広範にわたるマネジメント関連の諸問題についての自覚を高めるのに使えるかもしれない。とくに、複式簿記による記録に資本資産(土地、建物)も含めるのなら、それによって、これらの資源を、現金ベースのシステムによく見られるように「無拘束資産」として取り扱うよりもっと有効に利用するように、マネジメント担当者を鼓舞することも可能である。一方、多くは、会計簿の収支が均衡する"レベル"、そして、実績との関係がどれほど明白かによって、左右される。複式簿記システムが「実社会」レベルのマネジメントからはほど遠いレベルにとどまり、会計そのものがきわめて中央集権化した機能として遂行されるなら、大半のマネジメント責任者に与える影響はたかが知れている。

 

われわれの第三の手段、発生主義会計は、公共部門を可能な限り、民間部門との比較可能なベースに近づける(人類学の用語でいう「(グリッドgrid)」を下げる―(Hood, 1998)。これは政府組織が(現金が実際に支払われた時ではなくて)損害・負債を負った時に、みずからの関与を報告して、全資本試算評価と減価見積もりを可能にし、かつ年次「貸借対照表」の財務諸表を提示することを意味する(Likierman, 1998a and 998b)。分権化された財政マネジメントシステムと併用することにより、個々の期間とプログラムのレベルでの資源配分と実績マネジメントとの間の密接な関係のための基盤が形成されるだろう。本書を執筆中の現在、公共事業体で正規の発生主義会計が創られているのはオーストラリア、ニュージーランドおよびスウェーデンで、近い将来イギリスでも創られることになっている(HM Treasury, 1998)。

 

マネジメントのための会計慣行の変化の意義は、きわめて大きい。現金べースのシステムが優勢で、複式簿記と発生主義会計が欠けている限り、地球規模であれ、特定分野であれ、支出と原価、それに原価と実績を関係づけるのは難しい。マネジメントの担当者はみずからの資産使用に要した全経費を鼻先に突きつけられることはないので、実績管理は、もしそういうものが存在するなら、財政管理とは分離独立したシステムとなる傾向がある。一方、発生主義会計システムを様々なタイプのサービスや状況に応用することは、同じように簡単には行かないし、改革は利益も生むが、同じく期待はずれのインセンティブもまた生み出すこともある(Gillibrand and Hilton, 1998; Pollitt, 1998b; Straw; 1998)。

 

 

 

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