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マネジメントの改革によって、スタッフは旧式の方法を廃止し、新しい方法を学ばなくてはならない。情報と影響の円滑に機能しているネットワークは妨害され、新しい、まだ不確実なネットワークがそれらの位置を占める。政治家は、みずからがもっとも利害関係を持っていた国家機関の中のある一つの構成に慣れていたのに、新しいパターンに慣れなくてはならないし、新パターンは影響を与えたりコミュニケーションを取ったりしにくい可能性もある。そうしたことを始め、他にも似たようなことはいろいろある。政治構造の抑止的効果(囲みE)についてはすでに論じたので、以下これに対応する、‘行政’制度の構造を見ていく。この二つが一緒に働き、現状を動かすのは純粋に困難なので、それが改革担当者の熱意に水を差す。それゆえ、われわれはこれらを、その時の、より特異でダイナミックな圧力を、取り囲み、取り巻くものと呼ぶ。

 

行政制度(囲みL)は、漸時というより速い速度で変化するのが難しい場合がしばしばである。たとえば、イギリスの行政事務は総合職を中心に、その周囲に構築されているが、フランスとドイツをはじめ、大陸の行政事務は主として法曹界で訓練を受けた職員から成る。この種の、文化や学問にかかわる違いを一夜にして払拭するのは無理である―そうした違いは官吏がきわめて多岐にわたる諸問題を概念化し、それらの処理を考える方法に影響を及ぼす。構造の違いもまた大きな意味を持つ。スウェーデンやフィンランドでは、中央政府が長い間、控えめな規模の内閣と、それを取り囲む比較的独立した行政機関の円陣から構成されており、その行政機関が、執行に関わる諸問題に責任を負う。これは、フランスやイギリスで獲得されたシステム(少なくとも最近までは)よりも、さらに分権化したシステムである。こうした諸問題の多くは、イギリスでは地方や市町村の当局が中央の内閣と直接取り引を行なうが、フィンランドやスウェーデンでは省庁が取り扱う(とはいうものの、1990年代初頭、フィンランドは自国の省庁制度の根本から小型化することに着手した)。北欧諸国は、変化するためには、新しい法律と、中央政府と市町村との間の関係という、高度に政治的な問題を認識することが必要である。それは可能だが、(また、ある程度は達成されたが)、素早く、楽々と行うことはできない。三番目の例は、人事関連の規則である。官吏が適正に矛盾なく行動することを確実化するためには、こうした規則が必要なのは明らかだ。そのうえ、そうした規則は、それ自体の動きを創り出す傾向がある。何年もかかって巨大なマニュアルがつくられ、異例な出来事が起きる度に、さらに数パラグラフが、あるいは数頁がその‘超大作’に付け加えられる。連動する諸規則の、こうした紛糾を減らしたり改訂したりすることは基本的に難しい。1993年、アメリカの副大統領は『国家実績論論評(the National Performance Review)』を刊行し、連邦政府職員マニュアルは儀式的に、ホワイトハウスの芝生の上で焼却された。こうしたPR効果を狙った派手な行為に比べて、現実は感動が薄いものだ―巨大な行政事務は、その内部規則をすべて放り出したりはせず、大半の省庁は以前と同じように規則の大半を適用し続けているように見える。アメリカの仲間の一人がわれわれに語ったように、「焼却されたマニュアルが唯一だったということはあり得ない」のだ。人事関連の諸規則は多くの国々で―おそらく、フランスにおいてはとくに―そして、欧州委員会にとっても、大きな改革の足かせとなっている。

 

もっと身近なレベルでも、行政制度は依然、変えるのは困難である。単純な便益の請求システムを考えてほしい。請求者が社会保険事務所にきて、1枚の書式に記する。その書式は窓口の職員によってチェックされ、その職員はその請求が適切であれば、適当な支払いを行う。

 

 

 

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