日本財団 図書館


社会経済的力、政治制度にかかわるファクター、それに行政システムの構成要素といった主要なファクター集団の外部で働く影響力が一つある。囲みKは、狙撃や伝染病といったスキャンダルや自然災害、人為的災害、災難、不慮の事故などの、偶然の出来事の結果を示している。それらは明らかに社会経済的ファクターもしくは政治的ファクター(電車は、維持管理もしくは信号設備への公共投資が欠如すれば、衝突する。頭のおかしい狙撃者が政府に恨みを抱いていることもある)に入れることができるが、これらに顕著な特徴はそのニュースバリューと予測不能性だ。こうした出来事の改革計画に対する効果は、顕著ではないかもしれないが、時に深刻である。たとえば、ニュージーランドのゲイブ・クリークでの災害(政府保留地における観測台の崩落)は、新しい分権化システムについての政府のアカウンタビリティーに、マスコミの関心を一気に集中させた(Gregory, 1998)。同様に、イギリス国家医療制度の乳ガン検査の失敗を、1997年の新しい労働党政権は、前(保守党)政権が導入した市場型の機構が不適当かつ改革を必要とする証拠と解釈した(Laurance, 1997)。アメリカ合衆国では、スペースシャトル「チャレンジャー号」を破壊した大惨事が、最大の連邦政府機関の一つ、航空宇宙極(NASA)の大解体検査へとつながった。もっと個人のレベルでは、上級大臣はさまざまな「災難」をこうむりがちだし、時に強力な改革理念を持つ個人が、みずからのマネジメントの優先順位とはきわめて関連性の薄い理由で着任もしくは離任することがある。1980年代は、カナダのニールセン、イギリスのヘーゼルティンという改革担当大臣が突然離任した好例である(Savoie, 1994, p.130)。

 

したがって、広い視野に立つなら、この20年間の改革の急増はその原因をファクター数の増大に求めることもできるが、ひょっとすると特に地球規模の経済力、社会経済的変化、それに新しいマネジメント理念(囲みB、C、F)の登場に求めることもできるかもしれない。しかしながら、これらの圧力はなめらかな表面で、自由自在に活動できるわけではない。それどころか、対抗する力によってすぐに消されてしまう―現状において既得権益を持つグループの反抗だけでなく、もっと活力の劣る抵抗源もある。現行の、ものごとの実行方法が法律や準則によって侵害されることもある。というのは、法律や準則は変更に時間がかかるか、もしくは政治的に過半数を必要とするか、あるいはその双方を必要とするからである。極端な場合には、マネジメントのある種の変化は、一国の憲法―EUの場合は綱領―を調整して、これを創始するための協定に合わせなくてはならない。そのうえ、過半数が現行の行政部門の構造や手続きが不適当だという合意に達したにせよ、その代わりにすべきものについて合意に達するのはむずかしい(とくに実際にしばしばある通り、ある方向での改革は、他方向におけるリスクを増大する)。好ましい新方法で管理することは、新しい情報技術、新しい会計システムおよび/もしくは関係スタッフの新しい訓練プログラムに対する相当の投資を必要とした後、やっと実行に移せるようになる。これらのファクターはすべて、‘変化の費用’である。改革担当者は、しばしば、間近になる(準備をするか、実行に入る―囲みN)までは、この程度を過小評価する。

 

変化の費用の多くは、新制度のための「余地をつくる」ため、現存する政治制度や行政制度の撤去に関わる費用と考えることも可能である。どの国でも、現存する制度には、多くの歴史や多くの政治取引―それに、それゆえ、ある種の知恵―が組み込まれている。そうした制度とは、過去の闘争と和解の考古学的な図に他ならない(March and Simon, 1996, p.205)。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION