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満足のいく分析のためには、少なくとも、世界金融市場、自由貿易の進展、技術の規格化および国際化(たとえば、あるブランドのコンピュータ・ソフトやハードの地球規模での普及)、それに文化的グローバリゼーションとでもいうべき事象(マクドナルドをはじめ、特定の映画やファッション、スポーツ・イベントなど)の相互連携の増加に関連する、さまざまなメカニズムや特徴的属性を分類する必要がある。これらの、やや異なるプロセスが、ただ一つのユートピアか、ただ一つの暗黒郷か、いずれかを思い描くような方法でひとまとめにされることが多すぎる。

 

一言で言うなら、グローバリゼーションの‘経済的な’形態は、組織の変化に対する、一つの大きな影響力であったかのように見えるが、介在する、いくつもの変数を介して作用する、一つの影響力にすぎない。特定の国々において改革の正確な形とタイミングを決定するうえできわめて重要なものは、こうした、その他の変数だった。

 

社会人口統計学的変化(囲みC)は、かなりの重要性を持つ第二の背景的な圧力である。われわれは本書で取り上げた国々の各国における、何百万もの市民の生活パターンの変化から生起する圧力を、そのように呼ぶ。それらはあまりにも多く、ここではそのすべてをリストアップすることはできないが、もっとも注目に値する例を挙げるなら、生活に対する期待の高まり、家庭生活のパターンに起きた変化(とくに、離婚と家庭崩壊の比率の上昇)、それに、好況だった1950-73年に比して上昇した平均的失業率などがある。こうした傾向を示すデータをいくつか付表Aに挙げた。これらの社会変化の多くが持つ基本的な効果は、国家が供給するか、もしくは国家が融資しているサービス―とくに保健、社会福祉および社会保障―に対する需要を増加させることだった。たとえば、1990年代初頭には75歳以上の平均的アメリカ人もしくはイギリス人によって費消される保健財源の平均推定額は、中年のアメリカ人もしくはイギリス人によって費消される額の6倍から10倍に上った。それゆえ、人口中に占める高齢者の比率が上昇の一途をたどっているということは、暗に福祉支出が大幅に増大することを示している。大半の近代国家では、社会福祉(現金などによる老齢年金、失業手当、およびその他の給付金)は、国家予算中、単一費目として最大であり、次が保健である。したがって、これらのサービスに対する需要水準が大きく変化するということは、公共支出の相当額の増大と解釈される―地球規模の経済圧力がその他の方面におよぶのとまったく同様である。国によっては、批評家らが、国家財政は担いきれない福祉負担のもとに崩壊し、何百万人もの市民はみずからの、期待される権利と恩典を剥奪されるという、いたずらに悲観的で恐怖をあおるシナリオを書いている国もある。(アメリカでの論争をみたければMarmor et al., 1990を参照のこと)。

 

こうしたことのすべてが、いかにパブリック・マネジメントの改革に影響するのだろうか。またしても、その影響は、資本と貿易の流れのグローバリゼーションと同じく、間接的である。年金生活者数や失業者数の増加はそれ自体では、特定のタイプの組織変化を創出しない。だが、政治家や官吏に対して、制度のひずみを緩和する方策を探し出そうとする強力なインセンティブを提供する。こうした方策には、給付金の増加率を下げ(たとえば賃金と給与から物価スライド制をはずす、などの手段で)、適格者の範疇を狭める(これによって、適格者は「もっとも困窮している者」に絞られる)か、もしくは受益者による負担金や共同支払金を増額することが含まれる。

 

 

 

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