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第4の定義もまた別物である。この定義は第2、第3の定義に比して、ある意味で最初の定義に近く、組織や活動よりも理念と価値に重点を置いている。それでも、クラークとニューマンの方が‘イデオロギー’として「管理統制主義」という概念を導入したこと、およびマネジメントという考え方の生起を明瞭な‘政治的安定’(かれらの事例においては、福祉国家イギリスの再建をめぐる政界再編)に関連づけることによって、ペリーとクレイマーよりもさらに論を進めた。多くの国々においてパブリック・マネジメントの改革を支配した考え方や価値を一つのイデオロギーとみなすのは、新しいことではない。本書の著者の一人は、この展望の実用性故に、一つの事例を別の著作で詳述した(Pollitt、1993)。こうした流れにおいては、イデオロギーは、以下のように定義される。

 

イデオロギーに必須の特徴は、まず世界の諸国家について、そして世界がどうあるべきかについての価値や信念、あるいは観念を持っていることがあげられる。次に、これらの認識や情緒に関わる要素が一つの枠組みをなしていることが挙げられる。換言するなら、イデオロギーは単なる一揃いの精神的傾向の要約ではなくて、ある種の、かなりシステマチックな構造を持つものである(が、この構造は心理的なもので、論理的なものではない)。第三に、イデオロギーは社会集団と社会制度―換言するなら、資源の分配と調整についての、もっとも広義な意味での政治―に関係するものである。第四に、イデオロギーは複数の社会集団によって開発され維持されてきたので、個人と集団との間に社会的に派生した結びつきである…。第五に、イデオロギーは行動を正当化するための弁明を提供するものである(Hartley, 1983, pp.26-7)。

 

クラークとニューマンがイデオロギーと実践、それにある特定の政治的「解決策」とを密接に関連させたという事実は、彼らの分析にとってきわめて重要な含みを持つ。その意味は、イデオロギーの精確な構成―イデオロギーが持つ特定のテーマと価値のうち、なにが重視され、強調されるか―は国によって(組織によっても)多少異なるからである。これは、イデオロギーの「浸透」は、なんであれ、支配的な地方の政治勢力がどんなものか―政治的な「出発点」で、新しい考え方や実践が普及を開始するところ―によって影響されるからである。実際、これこそ、まさしく、われわれが本書の後段で多くのページ数を費やして論じようとしているところである。

 

最後の第5の定義であるが、これはドイツの高名な学者によるものである。われわれは、彼が「行政」を、他とは明瞭に区別されうる一揃いの原則(「それ自体の秩序」)にしたがって機能するが、それが植え付けられた先の社会での発展によって影響されるシステムとして捉えていたことに注目しなくてはならない。この特殊性は、現代社会の普遍的な特徴である「機能の細分化」というより一般的な過程の結果である。この国家システムを決定する特定の特質は、その出力(決定、サービス、財)が、経済学でいう市場や市民社会の関係による共感や義務という人間外の力というより、むしろ政治行政システムによって決定される優先順序にしたがって生産されるということである。さらに、これらの優先順序は、最終的には、国家が独占している拘束力や強制力の合法的行使によって裏付けられる。したがって、このアプローチは、市民社会と市場における発展の影響を受けるとはいえ、行政と国家を、個別の組織活動の領域として強調している。

 

 

 

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