日本財団 図書館


小龍潭の一番の目玉は「神農架“野人”夢園」であろう[写真5]]。1996年に完成したこの中国初の“野人”博物館は、入場無料。一階建て2フロアーからなっており、はじめは神農架の動植物紹介の写真パネルが並び、その奥に“野人”に関する展示コーナーがある。証言から推測した“野人”の性質や、古今の目撃談を紹介したイラストパネルが壁を飾り、ガラスケースには“野人”の関連図書・新聞記事・各種報告書が収められている。発見された足跡の石膏型・毛髪なども鑑定証付きでケース内に展示されていた。

 

033-1.gif

[写真5]] 神農架“野人”夢園

/1998年4月22日齋藤宗徳氏撮影

 

その他、奇石群や、滝、金絲猴生息地や“野人”目撃現場など、自然保護区内の各観光スポットには、案内板や休憩用のベンチが設置され、果ては天然の岩壁に朱色で字を彫るなどの手が加えられていた。

筆者たち以外にも、中国人の観光客がツアーを組んで訪れており、かつて秘境と言われていた土地は、一つの景勝地として生まれ変わりつつあるとの印象を強く受けた。ただいずれもまだ開発途上で、訪れる観光客の数も、お世辞にも多いとは言えない。宿泊所にしても、ほとんど筆者たちの一団の貸し切り状態であった。

033-2.gif

 

5] 懸賞金と都市部での“野人”イベント

神農架のような秘境を求めるのは、やはり日常を緑のない市街地で過ごす都会の人間なのではないだろうか。中国はその国土のほとんどを、広大な自然が支配している。地方の省都でも、少し中心から離れれば大平原であり、険しい山間部である。田舎ではいまだに、自分の生まれた土地から歩も出ずに生涯を終える者も多いのだ。ほとんどの中国人がこのような土地で生活していることを考えれば、よほどのセールスポイントがない限り、あえて神農架の深い山に分け入って余暇を過ごそうとは思わないだろう。無味乾燥な都会暮らしに疲れた(そして経済的にゆとりのある)人々にとって、そこは初めてオアシスのような魅力的な意味を持つ場所となるのである。

1998年11月27日、『成都商報』紙上に「“野人”を捕まえたら賞金50万元(約600万円)」との見出しが踊る。

 

注9 四川省北部の自然風景区。成都から397キロの所に位置し、世界遺産にも指定されている。中国でもっとも景色が美しいところといわれ、新婚旅行先としても有名である。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION