全裸の成人男性が映し出され、「人間女性と“野人”との混血だと言われている」とのナレーションがかぶる。なるほど少しサルのような風貌ではあるが、奇形の人間にも見える。その後、その人物と、アメリカのビッグフットのものと言われる映像、ゴリラなどの類人猿との形態上の比較がなされる。「“野人”の写真は今だ撮られてはいないが、我々は“野人”と人間のハーフを撮影することができた」とナレーションは誇らしげである。そして「神農架にとって“野人”はすでに重要な観光資源となっている」と結んで、このVCDは終わっている。
中国大陸に本格的にVCDなる記録メディアが浸透した時期でもあり、このプロモーション展開は機を見るに敏の作戦であったろう。日本では昨年あたりからDVDなるメディアが普及し始め、ゆくゆくはレンタルビデオに取って代わるであろうと目されているが、この1997年時点の中国ではすでにVCDが、どんな田舎に行っても必ずそのレンタル店が見つかるほどに、メジャーな情報メディアの地位を確立していた。ハード本体の価格も当初日本円で3、4万円もしていたが、その時期には1万円前後にまで下降。これは中国内で900もあるというメーカーの販売競争の結果らしい。ソフトも日本円で数百円(海賊版はもっと安い)、レンタルならば数十円で手にすることができるとあって、都市部の家庭は言うに及ばず、近郊の農村のリビングルームにいたるまで広く普及していた。ソフトの内容は中国や外国の映画・音楽をはじめ多岐に渡っており、特に1997年の映画産業は安くて手軽なVCDのために、打撃を受けたといわれている。
同年末に発行の大陸の雑誌『新週刊』総31期号(広東省新聞出版局、1997年)では、その年の「十大経済ニュース」、「十大ヒット商品」の中に、このVCDフィーバーを入れているほどである。
3] 新聞報道
これに対するマスコミの反応は早かった。まず1997年10月7日、『華西都市報』に以下のような見出しが踊った。
「湖北省で「混血」野人発見。身長2メートル、頭部は尖っていて小さく、矢状に突起した背骨の存在がはっきりと認められ、今なお健在である」注6
記事によれば、中国野考会が最近発表した映像資料(発売されたVCDの事であろう)中に、1986年に神農架で撮影された“雑交野人”らしき人物のものがあり、「その母が“野人”に連れ去られた後にできた子供」だと言われているのだという。
このニュースは、各方面に波紋を呼び、人々の話題となった。