競馬場と場外馬券発売施設の来場者を対象とした調査38では、「競馬シミュレーションゲーム」の経験者は54.3%、「ペーパーオーナーズゲーム39」が21.8%、中心は20代と30代であり、牧場観光者の最多年代と一致する。また、同サンプル(n=1576)の「馬券とは別の競馬の要素への興味」についての回答では、「非常にある」52%、「ある程度ある」40%であった。
(5) 馬産地のツーリズムの展開における背景要因とその特徴
当該ツーリズムの舞台は、そこへ行くこと自体が観光の目的ともなり得る巨大観光エリア、北海道にある。そして、その潜在市場は、人々にとっては旅よりも日常的なレジャーである競馬の市場に、内包されている。このような条件下で、北海道観光や競馬レジャーの動向、それぞれの関連周辺事情は、当該ツーリズムの旅の成立に、特にその量的推移において、大きな影響を及ぼしてきた。そして、調べてみると、両者の影響は、ほぼ同時期に同方向へ、相乗的に作用していた。それは時にツーリズムの量的低迷も促したが、総じてみれば、発展にむけて相当な促進作用をもたらしてきたといえる。
特に、競馬との関連においては、以下のような特徴的な構造から、ツーリズムの発展速度が速められてきた。1]観光資源である人気馬は、競馬施行を通じ、再生産される。すなわち、ここにおける観光資源は永続的にマイナーチェンジするとともに、その多様性がファン個々人の馬の好みに対応する。個々の観光者の「あるひいき馬への思い入れ」が時とともに薄まっても、別の馬がこれに魅了されたファンを惹きつける。ハイセイコーとオグリキャップは、多くのファンを魅了していたことで影響度が傑出していたわけだが、より少数にしかアピールしない馬においても、相乗的にグループの旅を成立させる。2]競馬の人気拡大は、ツーリズムの潜在市場の拡大につながる。さらには、競馬人気を拡大させようとした昭和60年代以降の主催者側の広報活動、およびその成果ともいえる平成ブームによって質・量ともに拡大した競馬メディアによる情報は、ツーリズム・エリアとしての地域の大々的な宣伝情報となった。また、情報については、マスメディアレベルの影響もさながら、3]ファン同士、すなわち草の根レベルのネットワークにおいても、わが国の競馬の市場が大きかったことで、それが比較的強力なものであったと考えられる。
この他、観光需要に先んじたビジネス宿泊需要への対応から、地域に宿泊施設が揃っていたことも、ツーリストの行動がその意図のままに通過型観光から滞在周遊パターンヘ移行することを容易にしていた。
38 日本中央競馬会(1996)pp.149-154.平8年末調べ
39 仲間内でデビュー前の競走馬を指名しあって架空の馬主となり、該当馬の年間成績を競うゲーム。