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V. ツーリズムの発展を促す要素

本事例を通じ、見いだされたツーリズム発展の最大の背景要因は、情報、ひいてはその伝達経路の持つ波及性と継続性にあったといえるだろう。

整理しておくと、ツーリズムの発展を促進する情報には、「人々に旅の実行を検討させる情報」と「旅をしやすくする情報」がある。後者は検討された旅の実行を容易にするが、前者があることが、ツーリズムの成立においてより必要な条件である。これには、地域の景観やそこにある事物を伝えることで、受け手に「その場所を旅先として想起させ得る情報」と、「旅行先例そのものを受け手に提示し、模倣・応用を促す情報」がある。先例は、いわば「コロンブスの卵」であるから、より容易に旅の検討に結びつく。地域のツーリズムの発展には、これらの「旅を検討させる」情報が発地に届くことが、およそ不可欠である。発地への情報は、マスメディアレベル・草の根レベル(interpersonal)の2チャネルで伝えられる。前者が波及性において長じ、後者が継続性、そしておそらくは詳細性や旅行検討者が欲しいと思うような情報への言及面で、長けている。

次に、旅先への距離感の短縮がある。本事例からかんがみるに、社会的に規定される経済距離・時間距離の変化のほか、より局地的な展開として、来訪が増えたより遠方の観光地との比較や観光者に意識されるエリアの拡大で「近くなる」こともあり得るようだ。

また、やや個別性の強いが、同種の観光資源における地域内での多様性・代替性(「関連性を持つ集積」と言い換えることもできるかもしれない。本事例では、観光資源となる人気馬が再生産される仕組みと支持者である競馬ファンとの関わり方―ひいきの馬が多岐にわたる―によって成立していた)や、通過型観光から地域内周遊型への移行を容易にした観光需要に先んじた既存宿泊施設の容量も、ある種の地域には適合するであろう。

 

VI. おわりに

本研究では、馬産地でみられる競馬ファンのツーリズムについて、発展経緯と背景要因を明らかにし、そこから一般化できる展開促進要因を抽出した。

通史を紡いだなか、特に注目された点は、通過型観光から産地内での周遊的な観光行動への転換が、観光者の実質旅費はじめアクセス条件が一番厳しく観光者数が番少なかった時期に起きていたことである。それは、単に競馬ファンが馬産地でより多く楽しみを得られる活動パターンを発見したという以前に、厳しいアクセス条件にあって、それぞれに一番好きな馬が異なる競馬ファン同士が旅を成立させる条件であった。

当該ツーリズムの背景では、1]その潜在市場がより日常的なレジャーである競馬市場に内包されていたことから、競馬における動向が、当該ツーリズムの旅の成立数に、強い影響力をもっていた。ハイセイコーとオグリキヤップが気に観光者を動員したのをはじめ、国内における競馬人気の上昇や主催者側のPR、人気に追随する各種メディア情報の拡大などが、旅の動機形成に向け、強く作用し、ツーリズムの展開を後押しした。

 

 

 

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