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JRAコマーシャル:「旅立ち」

競走馬になるため、牧場を去る馬と牧場の人々との別れ際のシーン。

 

これらの紙面には、牧場にいる引退馬やその産駒であるあどけない仔馬の写真がしばしば掲載され、また、牧場を訪ねた者が投稿し、多くはその満足感をつづった。それは、競馬場やテレビ画面を通じて好きだった馬に初めて間近に会う喜びや、草をはむ母馬と仔馬の光景、親切な牧場の人の話などで、撮ってきた写真が添えられることもあった。テレビの競馬中継も、こうした状況を受け、夏季を中心に、牧場風景をプログラムに組み込んだ。映し出される牧場は、近代的な洋風厩舎を持つ大資本の牧場が多かった。緑の屋根を持つ白い厩舎に馬が並んで顔を出していたりするのだ。また、牧場への好感度が意識されてくると、早速JRAのPRに取りいれられている。平成4・5年のCMは、牧場を舞台としており、産業観光広告といっても違和感のないものである。翌6年は、競馬評論家がツアーコンダクターの旗を振り、30代の俳優3人を牧場に案内する映像が流れた。また、この年は、「風の牧場ニュース」というイメージフィルムもシリーズで作っている。日高の牧場で生まれた1頭の仔馬の誕生から仔分かれまでの成長を追うものであった。

この種の情報の先駆けとしては、昭和50年代後半の乗馬愛好者向けの雑誌に日高ケンタッキー・ファームのパブリシティ記事があったと既に述べたが、60年代から平成にかけては、そうした情報が競馬ファンに向けて直接、発信されるようになったのである36

この他、牧場へのまなざしを育みつつ、ツーリズムの潜在的市場を拡大したものとして、パソコンゲームのメディア機能が挙げられる。代表的な競馬ゲーム「ダービースタリオン」は、平成3年末の初期バージョン発売後数年で、ゲーム作者の名を長者番付に押し上げたヒット商品である。プレイヤーが生産者兼馬主となって大レースの全制覇をめざすという内容で、「賭ける」ことよりも「強い馬をつくり、育てる」ほうに力点がある。それは、おそらくこれまでになく「ばくち」イメージの希薄な競馬への門戸でもあり、また、ゲームプレイ冒頭から牧場へのまなざしを育むものであった。ゲームであるがゆえ、プレイヤーは小中学生にも及んだ。近年の牧場観光者には、小中学生と保護者の姿が散見される。馬産地への行程不安のない札幌発のツアーバスが出現すると、祖父母と孫の組み合わせも見られるようになった37。おじいちゃんは競馬ファン、孫は競馬ゲームファンである。

 

36 わが国の競馬参加人口は、乗馬参加人口の、常に10倍以上で推移してきている。

37 北海道新聞文化センター主催の産地バスツアーで目立つ層。同ツアーは平成9年から年に1度、同新聞レース部の記者を案内役に、日帰りで行われている。

 

 

 

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