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(8) 平成3年 以降オグリキャップの見学から

ハイセイコーの牧柵を人々が取り巻いてから14年が過ぎ、新冠町は再び引退した競走馬の到来に沸いた。「『一日で六千人以上の観光客が訪ねてきて、大変な騒ぎになりましたよ。この新冠町の人口と同じぐらいの人が、オグリキャップに会いにきたんです』」25。平成3年5月、ライターの取材に、同馬のいる優駿スタリオン・ステーションの社長が語ったという言葉である。例年5月の連休は、隣町である静内町の二十間道路の桜が見頃を迎え、花見の客が例年国道235を渋滞させる(平3の花見客は約21万人)。優駿スタリオン・ステーションはサラブレッド銀座の国道寄りの角にあり、ついでに立ち寄って見ていくのにも良い場所であった。ただ、この時の賑わいが花見ついでの客ばかりでなかったことは、「オグリ以来、急に(ファンの観光者が)増えだした」という地元の声や、競走馬のふるさと案内所の来所者数・問合わせ数の推移にも明らかである。夏季には、同牧場はもとよりあちこちの牧場で、カメラを携えた若者が牧柵を囲んだ。周辺で繋養されている主だった活躍馬が、観光資源として同様な集客力26を示し出したのである27

オグリフィーバーの後は、「そこへ行けば、馬とふれあえるらしい」という、「不特定多数の馬」とのふれあいをもとめる人々が訪れることも増えた。一般の観光ガイドブックでも日高の名馬に関する記載が増え、競走馬のふるさと案内所の認知度も増した。つれて、旅行商品が充実しだし28、土産物販売事情にも変化があった29

一方、このような観光者増加のなか、ふるさと案内所設立に先んじて危倶されていた「牧場における観光トラブル」があちこちで伝え聞かれるようになり、平成7年、見学者の多い二十間道路沿いの4牧場が「一般見学者の受け入れ拒否」を表明する。静内町は受け入れの再開をもとめるにあたって、これらの牧場の負担を軽減し、見学希望者にマナー指導を行うため、町営の牧場案内所を桜舞馬公園内に設けた(平8)。

 

25 渡瀬夏彦(1995)。新冠町の人口は平成2年国勢調査で6,947人。

26 牧場にとっては客というより見学ないし見物人であるが、替わる適当な言葉がみつからなかった。

27 メジロマックイーン、トウカイテイオー、ナリタブライアンなど。話題馬は牧場入りすると、直後の五月連休や夏季に顕著な集客力を示した。また、オグリキャップ以前の活躍馬を訪ねる者も増加した。

28 1]例えば、1頭の馬を小口に分けて投資募集するいわゆる共同馬主クラブ会社の会員向け産地ツアー。以前より散見されたものだが、90年代半ば以降、急速に参加者を増やした。平成11年は少なくとも8社が会員ツアーを行っており、これらの総動員規模はミニマム5,000人。この他、ほとんどのクラブは、会員の見学希望に応じ、関連牧場への仲介サービスを行っている。2]平成7年からは、一般の旅行業者の旅行商品でも、北海道名馬めぐりツアーが登場した。例えば、「ツーリスト倶楽部関西」が、牧場めぐりを主にした夏季観光モデルコースを提案した。また同年5月に日本から米国ケンタッキーダービーへの初遠征出走があり、競馬雑誌・夕刊紙などの冠ツアーが近畿日本ツーリストなど数社によって行われたが、同様な市場への後続商品として、海外レース観戦ツアーや北海道牧場見学ツアーが組まれた。3]静内町観光協会の委託による定期観光バスの運行や、北海道新聞文化センターによる札幌発着のバスツアーが開始された。

29 幾つかの牧場に売店が設営され、また、馬にちなむ土産を中心に扱う土産専門店も幾つか開店した。馬をモチーフとした土産物(食品以外のもの)は、それまで主に地域の馬具商が副業的に企画し、観光施設に卸す他、馬具店内やイベント会場で販売していた。品揃え、流通経路もかなり変化した。

 

 

 

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