3.3 衝突海難の事例
3.3.1 自主分離通航帯内で発生した衝突事例
自主分離通航帯内で発生した衝突海難は、大王埼沖に設定された自主分離通航帯で3件あり、その要因はそれぞれ見張り不十分、狭視界時の航法不遵守、動静監視不十分である。また、このうち1件は操業中の漁船に対し航行中の貨物船(499トン)の見張り不十分のために衝突したものであった。以下に他の2件の衝突事例を示す。
(1) 事例1(平成9年神審第105号)
貨物船D号(498.41トン)、貨物船K丸(482トン)
i) 原因
霧のため視界が制限された状況下で、霧中信号の吹鳴や他船と著しく接近する状況において速力を低減し、必要に応じて行き脚を止めることがなかったこととによるものである。
ii) 衝突までの経過
D号の経過
D号(船長以下3名で運航)は平成9年4月3日8時5分、広島県呉港を発し京浜港横浜区に向かった。
4月4日6時45分頃、D号船長は大王埼南方を東航中、船橋当直に就くが、折からの霧のため視程は約100mに狭められていたが、霧中信号を行わず、また、安全な速力とすることもなく、機関当直中の機関長を昇橋させて見張りを行わせ、自らはレーダの監視に当たり続航した。
D号船長は6浬レンジレーダで右舷前方に数隻の映像を認め、右舷船首3度、5.1浬にK丸の映像を初認し、同船が西航中であることを確認した。
7時00分、K丸前方1.5浬を先航する他船の映像が自船の船首輝線に寄ってくるため、操舵を手動に切り替え針路を45度に転じた。
7時3分、D号船長はK丸の映像をほぼ正船首2浬に認め、その方位がほとんど変わらない状況となったが、最小限度の速力に減じず、必要に応じて行き脚を止めることなく、再び左転によってK丸を右舷に替わそうとし、7時5分、両船間の距離が1.4浬になったとき、小角度の左舵をとり、その後、左転を操り返しながら全速力のまま続航した。
7時10分、D号船長はK丸の映像がほとんど方位の変化なく600mに接近したとき、霧中信号を行うとともに左舵5度を取って同船の映像を監視していたが、依然接近するので左舵一杯とし船首が320度を向くころで舵を中央に戻して進行した。
7時12分、右舷側至近にほぼ並航するK丸を視認し、小角度の左舵を取るがK丸が再び霧の中に入り視認できなくなった。