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それからオンブズマンという名称は日本では誤解されていると思います。ジャコビー先生もお話になりましたように、そもそも国と国民との間の調停者として、国民からの苦情を受け付け、関係機関に是正措置を提言することにより、簡易迅速に苦情を処理するシステムなのですが、日本では、市民運動としての、いわゆる「市民オンブズマン」の方が著名になっていると思います。この先「公的オンブズマン」を根づかせていくためには、オンブズマン以外の、日本的な言葉を考える必要があると思います。別に世界統一する必要はなく、実質が同じであればいいわけですから、日本的な名称にするのが正解ではないかと思いました。

 

何れにしろ二一世紀に向けて情報公開、行政評価など様々な仕組みが準備されていますが、自分の問題は自分が係わって解決するという段階にきたのだと思います。そして相談委員の皆様の経験が地方に根づいて、生きた制度として、多くの人に活用されるようになればいいなあとしみじみ思った次第であります。

 

市民の立場にたった行政苦情救済制度を

 

西日本新聞社論説委員会委員 馬場哲郎氏

 

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私はオンブズマン制度は自治体が先行して導入していくのがいいのではないかと考えております。

最近のニュースのなかで「介護タクシー」というのがありました。ホームヘルパーの資格を持つ運転手が、病院或いは介護施設にいく老人のタクシーへの乗り降り等を介助するということで「介護報酬」を貰う、その代わりタクシー運賃は取らないということをはじめました。ところが運輸局は「それは違反だから運賃をとりなさい」と指導したというのです。

この介護タクシーは、所得の低い老人にとっては大変有り難いシステム、サービスだと思うのですが、それが料金を取られるということになりますと月々数千円の負担となってくるわけです。こんな時にオンブズマンがいれば―つまりオンブズマンは道理が分かる人だと思いますので―料金を取らないのは確かに違法ではあるかもしれないが、道理に基ついて考えれば、介護タクシーについては例外扱いをしてもよいという判断が下されるのではないか。またそのようにすることが、これからの行政には必要なことではないだろうか、と考えた次第です。

(注)このことについて、平成一三年一月五日付の新聞は「介護タクシーについて、タクシー会社に運賃を取るよう指導していた運輸省は四日、現状の無料運行を容認することを決め、各地方運輸局に通知した。」旨を報じております。

それから最近長崎原爆訴訟で国の処分を却下する判決が出ましたが、これも制度の運用に目を光らせる独立性の強い第三者―オンブズマン―の意見を反映させる行政が行われていれば、あるべき本来の姿への移行がもっと早くできたのではないか、と思いました。

 

二一世紀は行政改革で、これまでの事前規制の社会から、公正なルールに基づいてチェックしていく事後規制そういう社会に変わっていくわけです。そういうなかで、オンブズマンの果たす役割は大変重要になってくるだろうと思います。もちろん現行の制度でも、それぞれ相談窓口があり、それなりの効果をあげていますが、これにオンブズマン制度を組み合わせていく、重層的システムか、問題解決に大変役立つのではないかと考えております。

 

この後、ジャコビー氏及び各パネリストに対する質疑応答が行われました。

最後に司会の川上先生が、次のように締めくくられました。

 

川上宏二郎氏

 

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行政は法律に定められていれば、そのとおりにしなければならない。しかし現実に困っている人がいれば、それを見過ごすことができるか、という切り口もまた大事であります。苦情を申し出るということは困った事情があるわけですから、それを真摯に受け止めるという姿勢、そのこと一つにも苦情救済の意味は大いにあります。しかし問題を解決するときは、いろいろ知恵を出し合って、直接関係する法律には違反するかもわからないが、もっと大きな法理からすれば違反しない、という工夫をすることによって、別の活路がでてくるのではないかと思います。

 

行政苦情救済制度には、相手機関が「ノー」といったときのだめ押しがない。そこを何とかしないと折角相談にきた人に満足を与えられないことになり、このことが、この制度の有効性を考える上で非常に大切なポイントになります。行政相談が比較的うまく機能しているのは、行政監察が背後にあるからだと思います。行政苦情救済機能を有効に働かせるためには、一つだけを押すのではなく、何かそういう後押しをする、もう一つの仕組みとワンセットにすることが必要だと思います。行政監察局は行政評価局に変わりますが、この行政相談制度をより有効に機能するものとするためには、そういう工夫をお願いしたいと思っております。

 

 

 

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