(2) あいち福祉オンブズマン ―業務監査契約によるオンブズマン活動―
ア. オンブズマン制度導入の背景
あいち福祉オンブズマン(この会の正式名称は「あいち福祉オンブズマン委員会」)の設立目的には、「本会は、愛知県内にある高齢者、身体障害者、知的障害者等が入所または通所する保健、福祉施設の利用者の福祉を増進し、併せて施設が提供するサービスの向上をはかるために、利用者の権利、利益を擁護する活動、施設に対する改善勧告ならびに評価活動を行い、社会全体の利益の向上に寄与することを目的とする」とある。設立の直接のきっかけはSネット(湘南ふくしネットワーク)の実践を学んだ高齢者施設を複数経営する法人が、この地域の施設に呼びかけてオンブズマン制度導入を提案したことによる。つまり、一人で悩まず相談できる仕組みを合理化し、施設に訴えにくい要望、苦情、相談を聞き、利用者に代わって施設に改善を要求する形態であるが、提供するサービスの質をチェックするには、施設側との業務監査契約しかないと業務契約によるオンブズマン活動を平成10年12月から展開している。
具体的には、施設側で組織する「愛知・名古屋ふくしネットワーク」とオンブズマン組織「あいち福祉オンブズマン」はそれぞれに規約をもち、両者が「オンブズマン契約書」を締結し、活動はそれぞれ別組織で行うが、後者の活動費用は基本的に前者からの負担金でまかなわれている。実際、あいち福祉ネットワークの代表の水谷博昭弁護士事務所の相談デスクでは、火曜日と木曜日の午後電話で相談を受ける。高齢者、障害者、その家族ら、福祉関係者などからの相談で、「職員から暴力、暴言を受けた」「サービスがひどい」「お金の管理が不安」と様々な訴えが届いている。オンブズマンの熊田均弁護士によれば、今のところ電話相談は一日2、3件である。契約していない施設の利用者や家族からの相談が多く、オンブズマンが調査に乗り出すことはないものの、日本福祉大学の大学院生たちでつくる相談員が、必要な情報を提供したり、じっくり話を聞いて励ましたりしている。
オンブズマンの顔ぶれは、愛知県立大学社会学科から小国英夫、中田照子、大曽根寛教授の3人、名古屋弁護士会から水谷博昭弁護士(事務局長)ら6人、他に精神科医、管理栄養士、住居学や作業療法の研究者など幅広い専門家で担当している。
ただ、すべての施設からの相談に応じるわけではなく、現在のところは愛知・名古屋ふくしネットワークという団体に所属している11法人の35施設(特別養護老人ホーム、ケアハウス、デイサービスセンター、保育園)が対象である。これらの施設では、施設内の目立つ場所にオンブズマンの相談電話番号を掲示して、不満や苦情のある人は連絡するように呼びかけをし、また、オンブズマン委員会の運営費用も契約施設が分担している。そこまで積極的に施設が権利擁護に取り組むのは「施設のサービスが公表できるほどガラス張りである」「人権問題に前向きな施設」であるという姿勢を示して、介護保険導入後の福祉競争の時代に対応していこうという現れでもある。