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「○○だよ。判る?」

「五年前に門出したK君かい…。」

「そうだよ。忘れてないでしょう。あのねー三十日の夜、会社終ったら会長さんに会いに行ってもいいですか…。」

「ああいいよ。よく忘れずに想い出して電話くれたなー。待ってるからいらっしゃい。」

「じゃー、夜八時頃行くからね。」約束の時間に会社名入りのトラックでやって来た。仕事服のままだが茶髪ではない。声色は変っていないが、五年ぶりの顔は同じだった。愛妻や息子達(元兄弟だった)もK君である事は一目で判ったが、今の里子達には顔見知りは一人も居なかった。

「会長さん、お母さん、まー君(くん)(私の息子で年長)ご無沙汰しています。変らんねー。」

「俺って、随分悪だったよなー。会長さんやお母さんによく叱られたし、まー君と喧嘩もしたし、一杯悪(わる)したもんなー。」と。人懐(なつ)っこさに変りがなく、笑顔で、最初の会社から追い出されて、職を転々としてあちこち徘徊してた五年間のあれこれを止る事なく吐き出す様に話して、今は窓ガラスや鏡、サッシ取付けのガラス工事店で半年以上続けて働いていることを、ブッキラ棒ながらも明るく楽しく語ったのでした。

 

 

 

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