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2 1998年10月28日

上演発表記者会見

 

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外山雄三氏

今回の作品は、合唱オペラと言ってよいほど合唱団の占める役割が高いものです。合唱が全体を動かす『カルメン』や、大人数の合唱が出てくるプッチーニの作品のような合唱オペラもありますが、もしかすると今回の作品はこれらの作品よりもさらに合唱の出番が多いものと思われます。

そして、この優れた作品の生命とも言える合唱を、オーディションで選ばれた市民合唱団、オペラ支倉常長「遠い帆」合唱団が担うことは画期的なことです。

日本各地でオペラがつくられ、市民参加といった形がとられた例も少なくありませんが、ちょっと出るだけのものが多く、またそのレベルも高いとは言えないものもあり、これまでに批判も少なくありませんでした。私たちの中にも当初、仙台側が企画し、プロデュースするものだけれど、市民参加によってレベルが下がってはいけないとの意見が強くありました。しかし、この作品は市民合唱団が不可欠なものと思われるものでした。そして、何より、三善さんが「絶対にレベルを下げることはしないが、だからといって誰もが歌えるチャンスを狭めたくはない」とおっしゃったことによって、オーディションで合唱団を選ぶこととなったのです。

「遠い帆」合唱団に仙台少年少女合唱隊も加わり、舞台をつくりあげていくために、たいへんな練習が繰り返されてきました。作品の全体を貫く糸のように、すばらしい役割を果たすことでしょう。見事な市民参加の形が実現されたと思います。

 

3 1998年12月18日

プレ企画Vol.4[オペラ「遠い帆」のはじまり]

仙台市青年文化センターシアターホール

 

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佐藤信氏

三善さんが初めてオペラをお書きになることへの興味はものすごくありましたね。なぜわざわざオペラという形式の音楽作品を三善さんがお書きになろうとなさっているのかなと。

この作品がもっているテーマは今すごくふさわしいと思うんですね。いま町を歩けば支倉さんのような人にしょっちゅうぶつかったりすると思うんですよ。肩を落とした姿、自分でもわからないけれど何か意味があるんだと言われて一生懸命やっていたら梯子が外されたと。そういうときに人はフッと、自分はいったいなんのために生きてきたのかなとつぶやくことがありますよね。なんのために生きてきたのかということに答えは難しいのですけれど、それを“うん”と聞いてくれる人がいるとすごくいい。深遠な哲学ではないけれど“いったいなんだろうね”と言うときに“そうだね”とあいづちを打ってくれるような。僕は今度の舞台は、支倉に対する大きなあいづちだと思うんですね。支倉という人は大文字で書かれるような何かを私たちに伝えていないけれど、そういうつぶやきをたぶん残している。それを一回みんなで集まって“うん、そうだよな”とうなづいてみるのはいいんじゃないか、そういうようなものを創りたいと思っているのですが。

コーラスを普通のかたがやるというのはものすごくぜいたくな感じがするんですね。というのはプロのコーラスは音楽的なことを別にすると、ベテランであればあるほど、生きてきた過程が同じなんですね。要するに音楽の世界に生きてきている。舞台というのは最終的には人間を観るものだと思うんですよ。もちろんオペラの場合は音楽という作品を通じてなんですけれど、そこに立っている人に興味を持てるということは大事なことなんですね。そういう意味でいままでのいろんな体験をもっていらっしゃる人を100人ちかく一度に観られるというのはすごくぜいたくなことだと思いますね。自分自身にとってもぜいたくだし、お客様にとってもきっとぜいたくなことになるだろう。

 

 

 

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