船の操縦と自動車の運転
大島商船高等専門学校 教授 辻啓介
1 始めに
海上交通工学という研究分野があります。海上交通の効率運航及び航行安全を目的として、海上の事故防止や海上交通管理に役立っています。世界有数の混雑の海域、さらに瀬戸内海という複雑な内海を持つ我が国では、世界のトップクラスの研究が進められています。最近では、本四連絡橋の工事期間中の航行安全対策に大活躍をしました。
そもそも、自動車交通が広まったころ事故の多発が社会問題になり、効率運行と安全対策を目的とした交通工学という学問分野ができ、事故防止に活躍しました。海上交通工学もこの交通工学を基本としています。ここでは、海上交通工学的な観点から、自動車の運転を視野に入れ、海上における安全対策についてお話しをしたいと思います。
難しそうな話はこれぐらいにして、皆さんは、運転免許証はお持ちの事でしょう。運転される時には携帯されていますか。海技免許証はいかがですか。乗船中は常に船内に備え置かなければならないことが、船舶職員法で定められています。
「免許証の携帯」は、陸上交通と海上交通において、法律上の共通点です。他に、乗船定員・出港前点検等多数ありますね。私は、免許証ケースに入れていますが、皆さんはいかがですか。では、異なるところはどのようなところですか。日本での一番の違いは、右側航行と左側走行ですね。では、ほかの面ではどうでしょうか。このことをいくつかの項目に分けて解説しましょう。要は、自動車操縦(運転)の優良運転者である皆様に、船舶の安全運転(操縦)について自動車と比較しながら解説を加える事にします。
2 道路と航路
まず、道路と航路を比較しましょう。道路は、車線があり車は一列に連なって走っています。海では、法規で定められた一部を除き自由航行が原則であり、特に規制はありません。車で広い草原を走るのと同じです。しかし、最短経路を走ろうとするために同じ所を航行することになり、これが航路となるのです。しかし、車線がないために交通量の多い航路では、事故の発生率が高くなります。これが、世界で海上交通工学が必要になった理由です。
そこで航路の中心線上に浮標を並べて、船舶の流れを整流しようとしています。すなわち、行き会う船の通行帯を分けているのです。