(3) なぜ米国では政府再生運動やNPRを、新公共管理法(NPM)と呼ばないのか
既に指摘した表題の問題について答えておきたい。一応、次のような答えが可能であろう。
第1に、そもそも米国では、政府再生運動やその一環であるNPRに懐疑的であるような印象がある。この点は、政府再生のアイディアを提出したオズボーンとゲーブラーが学界の主流では必ずしもない人たちであることと関係しているかもしれない。むしろ彼らは学界の非主流派でありアウトサイダーなのである。だからこそ思い切った提言ができたといえる。それに対して、既存の公務員集団と何らかの関係のある学界の主流派にいる人びとは、このような改革運動に対して、より保守的で懐疑的な態度をとるのではないかと考えられる。
第2に、政府再生運動やNPRを認めるとしても、それらをNPMと呼ぶよりは、そのまま'Reinventing Government'と読んだ方がなじみやすい、と考えられる。それだけオズボーンとゲーブラーの本の与えた衝撃が大きかったのではないかと思われるのである。第3には、NPMが、主にイギリスやニュージーランドあるいはスウェーデン等を中心として、次第に世界各国に広がりつつあると理解することに対する米国の反発や懐疑である。この、いわばイギリスによる「NPM帝国主義」に対しては、むしろ「米国の政府再生こそ行革の本家本元である」というような対抗意識があるかもしれない。第4には、米国では、諸国の行政改革を、共通の枠組みを用いて国際比較するような研究関心が低いように思われる。この点は、政治学よりも行政学においてとくにそういえるようである。たとえば、後述するような、諸国のエージェンシー化についてのコーリン・タルボット(Collin Talbot)たちのような研究が米国では比較的少ないような印象がある10)。
2. 業績重視組織(PBOs)の提案と現状
(1) 業績重視組織(PBOs)とは何か
業績重視組織(Performance-based Organizations: PBOs)という新しい組織は、1996年3月に、副大統領であったアル・ゴア(Al Gore)によって、ナショナルプレスクラブで最初に提案された11)。そして、その原稿を下に作成されたブレアハウスペーパーズでは、9つの組織がPBO化されるべき候補としてリストアップされていた12)。それらは、1998年度予算教書で具体的に提案された13)。表3は、クリントン政権がPBO化すべきとした政府機関のリストである14)。