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私は、あまり学習だとか、教育というのを考えたことがなくて、干潟をはじめとする海の生物を調べているわけですけれども、何で干潟や海の生物を調べているんだと言われて、あまり考えたことはありませんでした。はっきり言えば、好きだからと。癒しじゃないですけれども、行って働いて、汗も流しますし、寒い思いもしますけれども、そういう肉体労働をしながら、生き物とつき合えるということ自体が好きなものですから、とにかく現場に行って、いろいろな生物を見ていることで満足していて、その延長で、それを少し科学的な方法を使って、発表して、それをこういうふうにして飯を食っていると。極端に言えば、趣味で生きているようなところもあるわけですけれども、それを何でかなということをあまり考えたことはありませんでした。何で科学するのかと言われても、よくわからなかったんですが、今日、3人の先生方の話を聞いて、なるほど、そういう見方もあったのかなと、ちょっと考えさせられる面もありましたので、そのことも含めて少し話をさせていただきたいと思います。

これは東京湾の木更津にある干潟の現在の写真です。決して何百年も前の自然の海岸の写真ではなくて、このような非常に良好な干潟環境が今でも残っています。こちら側には堤防がないですね。建物も見えてないのは、たまたまなんですけれども、ずっと広い河口の湿地が広がっていまして、その手前に、こういう潮干狩りができそうな干潟が広がっています。

先ほどの3人の先生方のお話とも絡むんですが、何でこういうところに行って、私は生物に興味を持つわけですが、何となく好奇心も沸いてくるし、精神的にも非常にリラックスしてくるのは、なぜかなということを考え直してみますと、先ほども濱田先生も、いろいろな関係性のもの、宇多先生のほうからは、総合的な浜の変化がなぜ起こるかと。いろいろな変化の仕方というものを考えなきゃいけないと。そういうことをお話しいただいたわけですが、私たちなんかは習慣になっていて、こういうところへ行くと、いろいろなことを考えちゃうわけですね。何で、ここに生物がたくさん住めるんだろうと。それから、どうして、そういう生物がいるんだろうと。また、そういう生物が住める理由は何なのかということを、これは1つの時間軸の中で考えなきゃいけないのは、そういう習慣になってしまっています。

例えば、ここで私が考えることは、干潟の特徴は何だろうかと。そうすると、言えというと、なかなか難しいんですが、考えてみると、潮が引いているのに水がたまっている。海の生物というのは、水がなければ基本的に生きていけないですから、干潟というのは、潮が引いたって水が残っている。あっ、そうか。じゃ、生物は結構、海らしい環境の中で、干上がっても生きていけるんだなということがわかる。それから、そういう生物が、どうやって餌を食べているか。これをぱっと見ますと、何もいないように見えますけれども、ここにカニをとっているおじさんがいるんですが、黙って干潟の表面を見ていると、カニが出てきて、さっきのシオマネキもそうですけれども、潮が引いた後、干潟の上に出てきて、砂を一生懸命、口に運んでいる。干潟の表面の上に何か餌になるものがあるんだなと。ということは、その干潟の表面に、そういう餌がたくさん存在する何かの理由があるんだなということがわかってきます。それから例えば、そこの干潟のカニが、どうやって、ここに生をなしているんだろうかと。親が生み落としたことは間違いないんでしょうけれども、私たちが常識的に考えているのは、カニの子供というのはプランクトンの子供で、海に運ばれて、そこから帰って来る。何で、こんなところに帰って来れるんだろうかと。そういうことを考えるわけです。それをある程度、今の科学的な理屈を使って、それから、そういう理屈ができ上がるような調査方法を組んで調べて論文を書けば、学会誌で発表してもらえると。それが私たちの飯の種になっているわけで、それが科学といえば科学なんですけれども、おそらく今日の3人の先生方の話でまとめますと、それは最もシンプルな動物としての本能かなという感じがします。

 

 

 

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