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「なぎさの未来〜人の欲望と自然保護との綱引き〜」

宇多高明(国土交通省 国土技術政策総合研究所 研究総務官)

 

東京工業大学修士課程卒。東京工業大学(工学博士)、米国スクリップス海洋研究所在外研究員(S55-56)、河川管理総括研究官などを歴任。日本全国及び世界各地の海岸調査を行う。また多くの人に海岸のわかり易い説明をするのが趣味。著書に「日本の海岸侵食」など。土木学会賞受賞。

 

ただいま紹介いただきました宇多です。

国土交通省の研究部長とかいうと、えらくいかめしく、裃をつけたおじさんじゃないかと思われるかもしれませんが、そういうのはちょっと時代錯誤です。行政改革のことからお話しするのは変ですが、結局、私たちは国民全体のために、なるたけ素直にいいことをやろうとそういう感じで日夜仕事を進めてきています。ですから中身が空っぽなのに、「この水戸黄門のご印籠が見えないか」と、そう言って居丈高に仕事を進めるのは好きではありません。

今、清野先生が最初に人絡みの歴史を遡っていく見方をされました。すなわち、社会科ないし理科のテリトリーを最初にお話ししましたが、今度はちょっと理科のほうに偏った自然そのものの理解についてのお話をさせてください。

今日は自然の話をしますが、私の申しあげたいことのスタンスは次のようです。我々人間というのは高々七、八十年しか生きていないです。大学を卒業し、60歳が定年とすれば30〜40年は働く。これは地球で起きている様々な現象から見れば、瞬きする間もないぐらい非常に短い短い時間しか生きてないことになります。これと比較して我々が今立っている、この地というのは、はるかに長く生きている。さきほど清野さんのお話の中にカブトガニというのが出てきましたけれども、あの生物は2億年間ずっと生きてきた。さっきはお話をされなかったけれども、それが突然絶滅危惧種になってしまったのです。人も200万年程度の歴史はありますが、そういう長いスパンの現象から決して逃げられないのです。どれほどお金をもうけても、何しても、個々人はもちろん絶滅してしまいますが、人類全体としてもそうです。だから、そういうときに、自然を見る謙虚な目がないと、「さんざんわめいて、結局死んでいったよ」、となってしまうと思います。種としてね。そういう面があり得るので、非常に冷静を見る感覚というのを持ってもらったらどうかと思います。

 

 

 

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