九十九里浜の典型的な浪
(写真 宇多高明氏)
いま、打ち寄せる波が4段ほど見えますよね。4段ないし5段。これは海底勾配が100分の1ぐらいのところに出来る典型的な波で、これと同じものを見ようと思えば、北陸の石川県北部の千里浜(ちりはま)がこれに匹敵します。冬季にそこへ行けば、こんな風景です。もうちょっと寒いですけどね。日本海側じゃないと、ここと同じような風景というのはなくて、太平洋側ではまずないです。なくなっちゃったと言うべきかな。高知や熊野灘はストーンと落ちています。宮崎県は昔は緩やかだったんですが、今は変わってしまった。静岡県の遠州灘も砂の量が足らなくなっているから、こういう緩やかな勾配の海岸はあまりありません。
だから、貴重なんです。これだけのものを人間はつくれないわけで、たゆまぬ波の作用でこういう土地が出来てきたんで、機構そのものが内在的にこの中にあるということです。
質問 さっきのお話じゃないですけれども、この土地も何とかしようという計画があるんですか?
宇多 出てくるでしょうね、そのうち。ここは国有地ですからね。だけれども、最近は自然志向が強いから、果たしてどうでしょうか。
質問 削られる崖の面積と、出現する土地の面積を比較すると、トータル面積では増えるんですよね?
宇多 単に面積として考えれば、はるかに増えています。削られる場所は高さが40〜50mの崖ですから、崖が1m後退すると、こちらはその何倍も前進する。でも、崖の台地の上にたくさんの人が住んでいて、海岸線ぎりぎりの崖の上にはゴミ焼却場とかがつくられているんです。そうすると公共的な施設の保護のために、崖の下をきれいにコンクリートで護っちゃったんです。だから昔に比べると、侵食のスピードが4分の1以下に激減していますから、ここの砂も無限にこうやってたまるわけじゃないです。
清野 実はいま、荒地というところをそのまま放置していただいたほうが生態系上良いのではないかという意見があります。例えば、九十九里浜を見たときに、もともと砂浜だったところというのは、海水浴場とか駐車場とかになって、人の侵入があるような状況になっています。ここのような荒涼としたところだったら、ほとんど人が来ないですから、例えば、コアジサシのような鳥が卵を生んで育てていても大丈夫なわけです。ですからこのような用途がとりあえず決まっていないような土地を、サンクチュアリみたいな形で位置づけられれば、自然のまま利用するというようなこともできると思うんですね。