質問 防波堤を延ばすのは、誰が決めるんですか?
宇多 ここでは漁港区域内ですから、漁港管理者が決めます。その際に、何らかの影響があるときは、影響は軽微であるというようなシミュレーションをやっちゃうこともあります。あまり大人げないのでそれ以上は言いませんが、逆の立場で考えると、その人たちにしてみれば、その影響を慎重に考えるとすると、予算を消化できないとか、予算がとれないとか、事業の進行がままならぬとか、そういった現実的な問題が出てきます。例えば建設省の事業だって、昔は「影響は軽微」というふうにさんざんやってきたわけですから、私だって人のことを責められた義理じゃないですよね。だけど、現在のように大局を見る時代になると、全て影響は軽微、軽微、軽微と、じゃあ全部足したら影響はどうなんだとなります。
でもここは漁港でしょう。漁業というのは、沿岸域の生態系がちゃんと保たれていないと商売にならないはずなんで、海岸保全と沿岸域の生態系の保持というのはどちらだけ一方がよければいいというものではなくて、よき海岸線と砂浜が保持されているということはよき生態系を保つことと同じことなんだということを清野先生と以前に発表したんです。
清野 一昨年の水産学会でその発表をした時、大勢の方が来てくれて、こういう発表はとても珍しいという話になりました。なぜかというと、水産と土木事業というのは常に敵対関係という構図がずっとあったんです。国のレベルでいうと、農水省と建設省、運輸省とかいうことで、大きくカラーが分かれているわけですね。それは県庁の中でも同じです。その間というのは調整し難いものだということをみんなが信じていて、同じ県庁の中でも、今までほとんど交流がなかったということを実際に話されていました。
それで、千葉県に限らず、やっぱり海岸の再生を考えようと本気で思った自治体の人は、良い海岸線を取り戻すということと、水産業にもう一度活気を取り戻すということは、実はよく話し合えば同じ目的だったんじゃないかということに気づいて、徐々に話し合いを始めています。
しかし現実には、土木サイドで「じゃあ、昔の海岸に戻そう」と言って、昔の九十九里とはどういうところだったのかというデータを集めようとした時、同じ土木系の部署はデータを出してくれるんですけども、水産系の部署は土木系のプロジェクトにデータを全部差し出してくれるということは、まだ難しいようです。
だからこれは、今後、情報公開とかが始まってきた時に、それぞれのセクションに眠っていた過去のデータを含めてテーブルの上に広げ、それで調整してみたら、実は、同じ目的に向かえるということがあるかなと思います。
宇多 それは何か障害になると考えているのかな。土木のほうもしかりなんだろうな。
清野 でも、お互いにデータを出さないという話は、実は私の周りには幾らでもあって、そういう時には、市民とか、別のセクターから情報を出してくれるように依頼や請求をしなければならないわけです。
宇多 では、次に漁港をはさんで反対側、つまり漁港の北側に移動しましょう。