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つまり日本の海岸侵食対策の背後には、先ほど見たヤードで消波ブロックをつくる人とか、それを運ぶ人とか、ものすごく大勢の人が日本の海辺で働いていて、地域産業として着実に根付いているんです。侵食があったからこの地域が食べていけたんだというような考え方もあるし、実際にそれで食べている人たちもたくさんいます。よく、こういう公共工事を全部やめちゃえという意見もあるんですけれども、多分千葉県では、海岸の工事を全て止めたら大量の失業者が出るわけで、それを県としてどう維持するのか、あるいは転業させるのかというようなことが土建業のあり方について議会でも相当議論になっています。

 

宇多 私は、税金使って公共事業で工事をすることそのものが悪いとは言ってないですけど、サイの河原の石積み事業というのは一方でやはりあるんです。無限にやってもちっともよくならないという類のものですね。つまり、皆それぞれが正当な目的を持って一生懸命やっているだけに、単に駄目だと言っても何も変わらない。ならば駄目なものをどうすれば、多くの人間が納得した形に持っていけるかというのが、今、最も大事なポイントだろうと私は思います。

一度は聞いてもらってもいいかなということで、こういう結構根の深い話をしました。

 

質問 この場所のように防波堤によって港の片方だけに砂が溜まるような場合、その砂を港の反対側に流すようなアイデアはないんですか?

 

宇多 外国では、砂の流れを絶った場合にはサンドバイパスといって、砂を人工的に運ぶということをやっています。それと、日本の港湾とか、漁港、海岸、にある護岸や防波堤といったすべての構造物というのは、どういうわけか、カクカクっとした直線的なものばかりなんですね。オーストラリアとかアメリカには、きれいに波のようなカーブを描いたものとかがあって、デザインというだけじゃなくて、流体力学を考えて造っている。海水という流体に接する海岸構造物はそういう工夫があって然るべきなんですけど、どうも土木屋の根本精神なのかもしれませんね、定規で引いたようにキチッとやるのはね…。あと、曲線の構造物は工事が難しいという理由もありますけど。

 

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