九十九里道路拡大図
清野 今、走っているのが九十九里有料道路です。有料道路というのは、日本の海岸沿いにたくさん作られましたけれども、こうした高速道路や有料道路というのは、基本的に人が歩いて渡るということを前提にしていません。九十九里有料道路も波乗り道路と言われていて、サーファーの人達とか、首都圏からの人たちの移動がしやすいようにということで出来たわけです。ところが、この道路ができたために、海岸に住んでいる漁村の人たちは海に出かけるのがえらく不便になってしまったんです。昔は漁師の婦人や子供が家から海岸まで歩いて、漁業の手伝いに行っていたのですが、この道路の建設が行われてから、海岸に立地しながら、海に背を向けるというような生活形態になってしまったんです。だから道路1本であっても、海と人とのつながりというのが隔てられてしまうのかということを考えされられる場所だと思います。
昔、九十九里浜と言えば地引網というイメージがあったんですけれども、今は地引網をやるような遠浅の広大な砂浜もなくなりつつありますし、また地引網という漁業そのものが漁村自体の崩壊によってできなくなったんですね。その理由の一つとして、千葉県は東京に近いということもあって、戦後に漁村の労働力がどんどん工業のほうに吸収されていったということが言えます。
地引網という漁法は、これだけはどうしても機械化できなかった、という漁法でありまして、本来、砂浜の自然と調和していく方法としては、地引網ほど理想的な漁法というのはなかったんですが、沖合の漁業で獲る魚種のほうが価値が高いとか、安全にたくさん獲れるということもあって、地引網は急激に衰退していきました。その結果、砂浜で行う産業というのは、もうほとんどなくなってしまったんです。最近、地引網を復活させようというところが出てきていますが、今のような砂浜でやろうと言っても、あまり魚が獲れないので盛り上がらないのが実情です。