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一方で、海岸保全のサイドからみれば、「砂が流れて来ないな、しようがないな、これじゃあ砂浜が削れて無くなる一方だから消波ブロックと護岸で守るしかないか。」ということになったんですが、根本的なところに矛盾があるわけです。そもそも九十九里浜というのは、少なくとも6000年かけてジワジワと形成されてきて、つい最近まで砂がどんどん堆積してきた場所なんです。それがこうした防波堤ができたことによって砂が流れていかなくなったために、今までのように砂が運ばれて来ることを前提にしていては存続できなくなってきてしまったわけです。いわば脳卒中みたいな状態です。血液というものはうまく流れてぐるぐる回っていることが大事なのだけれども、国土の血液というのは、ある意味、海岸線で見ると砂ですから、この血液循環が絶たれると、血があふれ返ってしまったところは処分に困る、もう片方では血が足りなくなるということが起こってしまった。今や外国では、砂がたまるところから取って下手側に流す、砂をバイパスするということで、心臓のバイパス手術と同じですよね。サンドバイパスということで、いろいろなところでお金をかけてやっているんです。日本では、それがセクター主義というか、それが原因でなかなかできなかった。

大蔵省も大蔵省で、固いもので国土を守るということを好んで認めてきたということで、日本の海岸線はすごく人工化が進んでしまったし、海岸保全の側もそうやって、国土を守った。しかし実はそれによって生態系が狂い始めたわけです。沿岸の生態系に影響が出て、魚介類が採れなくなってきた。そうすると、一体今まで何をやっていたかと言われ始める。海岸保全ということと沿岸域の保全ということは表裏の関係ではないかと思うんです。

 

余談ですが、港を出た船は、防波堤で囲まれた港内を波に向かって進むときはいいんですが、外海に出た瞬間、真横からわき腹で波を作用されますと、非常に転覆する危険性が高いわけです。だから、銚子などでよく起こっている転覆事故はその典型例で、胴のところに瞬発的に当たるような波があると、そういうときには転覆しやすい。空船の場合はまだしも、もし魚がいっぱいとれて帰港するときに横から胴腹をやられたら、復元力が弱いですから非常に危険なわけです。ですから港の出口のところは一番気を使わなきゃならない。

 

それから、太平洋側ですと、夏の時期に20秒ぐらいでゆったりと動く水面変動があるんです。これは、ここから苫小牧に至るまで、太平洋側の大きな港湾でほとんど問題になっていて、それは長周期波と言って、周期の長い波、長周期波対策問題というのがあるんですけれども、いくら防波堤で囲ってもそういう波だけは通り抜けて、大型船の荷役の邪魔になるという問題がこの地域一帯で起こっています。

 

サンドバイパス

海岸線に設置した漁港や防波堤等の海岸構造物によって漂砂の供給が遮断されたことで砂浜の侵食が進んだ海岸において、別の場所で過剰に堆積した土砂を砂浜の失われた場所へ輸送するシステム。

 

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