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でも、船というのは喫水がありますよね。それが問題なわけです。船は満潮、干潮、いろいろな時間帯に出入港しますけれども、満潮のときはいいですが干潮のときの水深が浅過ぎると、底をすっちゃうんです。ですから海底面からの余裕が一番潮が引いた時でも、例えば50cmとかそのくらいはないとだめですよね。つまり航路の水深を最低限安全な水深に保っておくには溜まった砂をどけなきゃならない。それを浚渫(しゅんせつ)といいますけれども、その費用が地元負担なんです。補助も出ますが、これは今年1回やればそれで終わりというものではない。というのも、波が来ればまた砂がたまる。延々とこれを繰り返さなければならないというのは費用が継続的にかかるわけで、維持管理費という形で固定的に費用が発生するというのは、大変な損失なんです。それは漁港の管理者にとっての最大の悩みです。でもそれをやらないと、座礁する危険性があるというのでは大変な問題です。

 

しかし漂砂はそんなことお構い無しに流れてきます。九十九里浜では、陸上の砂浜の標高約2mから水深約7mくらいまで帯域の砂が、帯状に北上するように動いています。そのど真ん中をこういう航路が突っ切るということは、防波堤が砂の流れを遮断することになります。別に遮断するからいけないとか言うつもりはなくて、砂が流れている海に防波堤を伸ばした。航路を掘った。だから、砂が流れなくなった、そこに砂が溜まった、という単なる事実を述べただけです。ここの漁港は国の施策で言うと水産庁の所管になるので、漁港法に基づいてきちんと仕事をした結果なわけです。

つまり、この防波堤が良いとか、悪いとか、そういうことじゃなくて、航路もうまく確保して、砂浜の問題もうまくマネージするという、総合的視点が必要だということが重要なんです。

 

7月の海洋管理研究セミナーのとき、セクター・バイ・セクターという話がありましたけれども、まさにここがその良い例です。このような漁港というのは全国に約3,000港あって、太東漁港はそのうちの1つに過ぎないわけですが、ここでは漁師が安全に操業できて、しかもできるだけエネルギーを使わずにうまく漁獲が上がるように漁港を一生懸命つくってきた。それはいいことですよね、とても。しかし何年も何年もかかっていろいろやってみたけれども、結局砂はたまってしまう。今海に向かって伸びている防波堤がジグザグな形になっているのは、いろいろな過去の経緯を物語っているんです。この漁港が過去にどういう変遷を遂げてきたかということは、千葉県の漁港課に聞けば平面図を出してくれますから、それが何年、いつごろどういう形だったかというのは記録に残っていますが、簡単な見方としては防波堤の色の違い、形の違いをよく見ると色々なことがわかります。前方の防波堤、コンクリートが真っ白ですよね。あれは多分出来てから1〜2年。それに比べて、こちらのほうは10年とかいう時間がたっているのがわかる。漠然と見ているだけでは気がつかないけれども、現地を歩くときにこのような視点を持つと多少参考になると思います。

 

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複雑な形状の防波堤

 

海洋管理セミナーでのセクター・バイ・セクターという話題

2000年7月13日に日本財団の主催で開催された「第1回海洋管理セミナー」において、「米国における沿岸及び海洋政策の発展」と題して講演を行なったチャールズ・N・イーラー氏(米国海洋大気局(NOAA)国際プログラム室長)は、沿岸域管理の先進国と言われるアメリカでさえも省庁間の縦割り行政の弊害が問題となっており、海洋政策を包括的に管理できる仕組みが早急に必要と指摘している。

 

 

 

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