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この太東崎を形成するのは凝灰岩と砂岩という岩で、非常に脆くてそのために侵食を受けやすく、また少しの力でも割れやすいという特徴があります。

さっき宇多先生のお話しで、侵食という面から見れば、この岩は割れやすく侵食されやすくて困るということだったんですけれども、一方、生物の側からすると悪くないんです。この近辺は磯の生物にとっては非常にいい環境なんだという話を、例えばアワビを採っている漁師の方などからよく聞くんです。生物の棲みやすいすき間が出来やすいのです。もともと房州、房総の地質というのは、第三紀と言われる大体6000万年前ぐらいの海底に堆積した土砂なんです。

 

それで、侵食対策ということで崖を徹底的に護岸してしまうと、崖が崩れて海底に供給される砂泥がなくなってしまうということになります。また、磯の地質を変えてしまうと、例えばアワビだとか、軟岩と言われる柔らかい岩に穴を掘って棲むような生物が生息できなくなってしまうんですね。それで房総では、コンクリートで岸を固めてしまったために、もともとの生態系が変わってしまい、漁業生産高が随分と落ちているところもあるんです。海岸をそのまま放っておくのであれば、ある程度以前の生態系が持続できるわけですけれども、今後、海岸の工事をする際に、こうした問題を踏まえたうえでどのような素材を使うのかということが問題になってくると思います。

宇多 ところで、この場所にもたくさんのゴミが漂着していますが、海岸のごみの問題というのは、今すごく問題になっています。今は海岸法が変わったので、嵐のあとで大量の流木が流れ着いた場合には、公共的な資金でクリーニングできるようになりました。しかし、そうではなくて、主に川などからの毎日毎日少しづつ流れ出て寄せてくる流木などのゴミ清掃には、お金は出ません。特に、海岸の流木は塩分を含んでいて、燃やすとダイオキシンが発生しますから、処理にお金がかかるんです。

 

では、海食崖の上に移動しましょう。

 

宇多 ここは先ほど下から見ていた太東崎の海食崖のてっぺんの部分で標高40〜50mほどです。今日はちょっと天気が悪いので、遠く屏風ケ浦までは見えないかもしれませんが、大体の全貌は見えると思います。

左手に九十九里浜平野、右手に夷隅川の河口を臨むような位置にいます。

夷隅川の河口に平行に伸びる2本の河口導流堤が見えます。その裏側には、池みたいな場所が広がっているのが見えます。この池のあたりでは、塩分が季節的・時間的に変化するために、生物の多様性という点で非常に大事な場所なのですが、そういう場所は一方で高潮などの災害が起きやすい場所なので、人間の生活の安全と、地域の自然環境の保全という点で、非常に衝突が起こりやすい場所です。田んぼというものは2日間真水にどっぷりつかっても平気なのですが、海水が入ってしまうとその後1年ぐらい使えなくなるので、そこを守ってくれという農民と、いや自然は大事だという人との間で、なかなかうまく調整がつかないというパターンが多いわけです。

 

奥に灯台がありますね、白い灯台。あれ昔は柵の外側にあったわけで、崖侵食が進んでここでは危ないというんで内陸側に移ったんです。この下、のぞくとすごい崖で、足がすくみます。

 

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河口導流堤

河川の河口部では打ち寄せる波の影響で砂が堆積しやすく、河川の水流の障害となるだけでなく、船舶の航行にも支障が出ることから導流堤を設置し、漂砂が河川(河口)に流入するのを防いでいる。

 

 

 

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