ただし、それは何が何でも駄目ということではなく、「通常の状況」(ノマル・サーカムスタンス)では同意を与えるということで、ノーマル・サーカムスタンスとは何かというと、要するに、友好的な関係にある国同士の間では普通は同意を与えるという、そういうシステムになったわけです。ただし、沿岸国の持っている主権的権利にかかわるような、例えば、漁業のような天然資源の開発とか、そういうものを調査するというのはNOと言える権利を沿岸国が持っているものですから、いろいろぎくしゃくしてくるわけです。
200海里の経済水域というものの性格について、世界的に細部にわたってコンセンサスがあるかというと決してそうではなくて、現実にこれから運用していく過程においていろいろ明らかになってくる、あるいは調整を通じてルールの内容がはっきりしてくる部分がかなりありまして、その中における科学的調査もその1つという感じはいたします。
もう1つ、200海里の中で何が決まったのか今一つハッキリしない点の例として、水中における200海里の下に沈んでいる文化遺産はだれが管理し管轄権を持つのか、ということすらもまだ十分決まっていない。こういう水中文化遺産についての管轄権は今ユネスコ中心にいろいろ審議はしているんですけれども、この点につき200海里の中において沿岸国なのかそれ以外の国なのかということについては、まだいろいろ未確定な部分もあります。
佐藤:今、栗林先生にお答えいただいたんですけれども、先生まさにおっしゃったように、海洋の科学的な調査ということであれば問題はないと思うんです。これは原則自由にやるべきだということが国連海洋法上にも書いてありますし、実際問題、実は私ども外務省の方では、外国からの調査の申し込みといいますか、同意を得るための手続を受けていまして、それを関係各省に諮ってOKを出すわけですが、ほとんどの場合はOKしております。
ただ、1つ問題は、まさに先生がおっしゃったように、これは海洋の科学的調査が原則自由であって、通常は反対しないということなわけですけれども、資源ということになりますと別なわけですね。例えば今問題になっている中国が資源調査もやっているのかどうかという議論があり得るわけですね。中国が92年には原油の準輸入国に陥落して、エネルギー需要が非常に高まっているという状況を考えると、そうではないかと皆さんが思うというような事情もあって、そもそも科学的な調査なのかどうかという点も判断が非常に難しい。実際問題、例えば水質検査をやる場合に、そこのプランクトンの数を数えることが水産資源調査に当たるかもしれないし、そこは非常に難しいということで、問題のソースになっているんだと思います。
ちなみに、中国の問題を個別に申し上げますと、皆様既にご承知かと思いますけれども、中国の調査船の問題が非常に大きな問題になっておりますが、この背景には、そもそも東シナ海において中国と日本との間に大陸棚及び排他的経済水域の境界線がまだ確定していないという状況がございます。確定していない状況では、それではお互いに調査は自由にやっていいのか、それともそうではないのかという点については、実は国連海洋法条約では何も書かれておりません。合意があるまでの間、管轄権をどうするのかということについて何も書かれていないものですから、日本は基本的に今までは、合意がない場合は中間線までは日本の権利だという基本的な立場をとってきておりまして、中国側は合意ができるまでは自由だと。