小笹:小笹と申しますが、私が考えている漁業権の問題点、多少誤解を受ける点があるかもしれませんが、海でいろんな建設事業を行なう場合に、漁業補償費というのはどれぐらいの割合になるかといいますと、5%から10%ぐらいなんです。もう少し高い例もありますが、大体そのくらいのオーダーです。アメリカでミティゲーションをやっていますが、その費用も事業費の大体5%から10%ぐらいなんです。水産の重要性が日本とアメリカでは全然違いますから、日本の方が圧倒的に重要ですけれども、日本の場合は、結局、補償費はお金で決着させているわけです。漁業の場合には、海の環境を良くすることが水産を良くすることに繋がっていくと思うんですが、日本ではそういうメカニズムになっていないのです。アメリカで行われているミティゲーションの場合には、そういう形ではなくて、全体の環境を良くしようという形でお金が回っていくんです。そこが問題だと思っています。
来生:確かに、どこにウエートを置いて議論をすべきかというところがなかなか難しいので、あえて私の意見だけ言わせていただきますと、漁業補償の価格が高過ぎるというのは最適の価格があるという前提がどこか別にあるはずで、その最適の価格との関係でどれぐらい高くなっているという評価があるのではないかと思うのです。その議論は余りされていないように思うわけで、本当に高いかどうかというのは非常に難しい判断であるということです。
極端に言いますと、これは多屋先生のお考えと比較的近いのかもしれませんけれども、漁業権を現在は移転できない権利として法的に構成しているという点を考えなおして、これは極端な議論ですが、漁業権を譲渡可能な権利にした時に世の中がどう変わるだろうか、当然それがすぐに実現するなどとは到底考えてはおりませんが、将来に向けてのある意味でのシミュレーションをしてみると、マーケットメカニズムの中で自然に解決される可能性があるかもしれないと考えております。
レジャーとの調整というのは、これはこれでまた非常に難しい問題がありそうな気がしますので、それは細かく話を分けていかないとダメかなと思います。
寺島:漁業権の話が出たので、昨日エノックさんとお話したことを思い出したんですが、エノックさんは日本のシステムはかなりうまくいっているのではないかというご認識のもとに、フランスの制度の話を伺ったんですが、それをもう1回ここで紹介していただきたいと思うのですが、エノックさん、フランスの漁業権のシステムについてお話しいただけませんでしょうか。
エノック:ありがとうございます。フランスにおきましては、これは表の中では書いてありませんが、沿岸水域というのは国が所有するものです。そして漁業権は移転できません。すなわち漁業組合には移転されていない。国、そして行政機関が統括しているということです。つまり国が漁業権を配分するわけです。個人の漁業者に対して与えるものであって、漁業組合を通じて与えるものではありません。つまり漁業権というのは、その権限が漁協に対して移譲されるというものではなく、国から個々の漁業者に対して与えられるものです。だからといってこのシステムの方がいいと言っているわけではありません。しかも、フランスにおける事情は日本とは全く違います。