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具体的にどのような協定内容にするか。これは多分マラッカ・シンガポール海峡あたりから始まるのではないかと思います。

 

寺島:ありがとうございました。

それでは運輸省の増井さんからのご質問で、これは栗林先生へのご質問ですが、日本のナホトカ号、フランスのエリカ号、また先日のイエボリ・サン号のような大規模な海洋汚染事故が続発する中で、そのような海洋汚染事故に対処するためには、旗国主義を制限し、沿岸国の指揮権をより強めるべきではないかとの意見がありますが、そのような意見に対してどのような感想をお持ちですか。

 

栗林:ご質問された増井さんはご存じだと思いますけれども、国連海洋法条約では、海洋環境の保護保全という1つの大きな部を設けまして、その中で海洋全体の環境を保全するためにはどうしたら良いかという幾つかの枠組みを用意しておりますが、海底からの問題だとか、あるいは陸地からの問題だとか、そういうところについては国連海洋法条約そのものはダイレクトに取り扱わずに一般原則だけにとどめて、海洋法条約が細かく規定したのは船舶起因汚染の防止です。これは昔から国際的に規制が進んできている分野ですし、また船舶の持っている国際性といいますか、幾つもの国にもまたがって航行して問題を生じていることに対する規制のし易さもあったと思いますが、そこで出てきた枠組みは、要するに、今まで旗国主義一辺倒であった。ところが、旗国の中には便宜置籍国みたいに、自分の旗を掲げさせておきながら、その船に対するコントロールが非常に緩いとか弱い国があるというようなことに対する反省から、また、現実に船舶起因の汚染から被害をこうむるのは、直接の被害をこうむっている沿岸国民がいる沿岸国であるという意識が高まって、沿岸国にも管轄権を与えようということになりました。ところが、もう1つは、これはアメリカなどは昔から主張していたのですが、船というのは点と点を結んで移動しているものだから、点のところ、つまり港に入ったところで証拠その他を押さえていけば非常に効果的ではないか、港国にも権限を与えようということで、旗国、沿岸国、港国の3者を含めた管轄権の組み合わせになったわけです。

それで国連海洋法条約が解決したのは、旗国はやっぱり大切だという前提です。自分の国の旗を掲げさせて、こういう構造でこういうふうな配乗の条件で船を出す、そのことに一番責任を持っているのは旗国だろうということで、旗国に第1次責任を負わせて、先ほど言ったような大きな座礁事故、原油の流出というような事故の場合には、沿岸国が場合によっては管轄権を行使してよろしい。それから港国の場合は、これは義務としないで、やれるならやってもいいですよという弱い形で問題解決が図られたわけです。

私自身も思いますが、沿岸国に強力な権限を与え過ぎますと、海運の日常的な活動というものが阻害されるおそれがあるかも知れず、沿岸国権限の乱用ということを恐れます。ただし、それに応じて、旗国はもう少し自国の船舶に対する監督機能を強化しなければならないという前提があるわけですけれども、まだそうでない現実がありまして、旗国に集中させることも問題が残るだろうと思っています。

 

 

 

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