ちょうど空においてハイジャックという航空犯罪をきめ細かく規制したがゆえに、この種の犯罪はだんだん減少気味になってきているわけですけれども、そういう取り組み方が海でも必要ではないかということで申し上げたわけなんです。
佐藤:ありがとうございます。シージャック防止条約については、これは海賊問題に対応する1つの有効な手段として私も良いものだと思っておりますけれども、ちなみに日本は批准しております。国内法制も一応整って、刑法の改正もやっておりますので、一応対応できる形にはなっていると私は理解しております。
ただ、私が1つ先生にお伺いしたかったもう1つのポイントは、国連海洋法条約では公海上における海賊行為のみを扱っておりまして、しかしながら、先ほど寺島常務の方からも話があったように、最近の東南アジアにおける海賊行為の多くは沿岸国の領海で行われています。したがって、この国連海洋法条約では全く対応できない部分がほとんどです。他方、私どもが、海上保安庁さんなどと一緒に各国に働きかけを行っている中で問題なのは、沿岸国、例えばインドネシアなんかですが、警備艇が足りなくて、実際に全体をする能力がないわけですね。そうした領海における他国、例えば日本の海上保安庁が行ってこれをつかまえることは国連海洋法上もできないし、今までの国際法の常識からすればできないわけですけれども、例えばそういうことも可能とするようなある種の新たな海賊問題に関する条約みたいなものをつくる方向に行くべきなのかどうかという点について先生のお考えをお聞きしたかったものですから、失礼しました。
栗林:ありがとうございます。批准のことは知りませんでしたけれども、国内法制は刑法の4条2項だけでは十分ではないんじゃないかと私自身は思っています。ハイジャック防止条約に対応する国内法のように、シージャック防止法のような国内法制の成立が望ましいということで国内法制の不備ということを申し上げたわけです。
それから、領海12海里の世界的な傾向というのは、これは先ほど言いました沿岸国管轄権の拡大傾向の中でやむを得ない現象だと思いますけれども、12海里に広がった沿岸域の中で、いわば監視管理能力がないような国の中でそういう海賊行為、バイオレンス行為が発生した場合にどのように対処するか。領海の拡大方向ばかり進んでしまって、その中の取り締まり能力がついてこないというようなケースが幾つかの海域であり得るんだろうと思います。そういうときに日本がどう対応するか。確かに海上保安庁の船が乗り込んで行くとはいかないわけで、その辺りは非常に問題が多いと思いますけれども、多分それは地域的なレベルで海上犯罪の抑止、抑制をする。そういう意識の醸成の中にお互いの国際協力を通じて地域的なレベルでやることは、恐らく国連海洋法条約に触れないだろうし、その辺りからスタートするのがいいと思っております。