こうした研究は現在も継続中で、ツーロン湾地域ではデータの収集活動が行われ、堆積物の汚染状況や、底生生物、植物、動物についてのマッピングを作成しています。またツーロン湾では栽培漁業が小規模ながら行われており、水質の汚染状況について沿岸のみならず、近海の水域に関しても診断を行っています。また、沿岸の水力学的モデル化を行っています。地中海には強力な潮流というのがありませんので、沿岸の水力学的なモデル化というのは難しいものです(P.78参照)。
来年には、以下のようなことをしたいと考えています。研究の最終段階ということで、まずは水生態系環境管理の5カ年計画を策定します(P.79〜81参照)。そして湾岸地域管理委員会というものをつくり、今後5カ年にわたってさまざまな利害関係者及び14の自治体等が協議して、そこで目的を明らかにし、例えば雨水とか下水処理といった衛生関係、水系の維持・回復といった優先順位の高いものから行ないます。生態系を回復させるというのは、日本においてはかなり活発に行われていると聞いていますが、フランスにおいては比較的新しいものです。そしてさらには湾岸及び流域、すなわち沿岸のみならず源流まで遡って統合的管理計画を策定するというものです。これがローカルな地域での水マスタープランの適用例であります。
最初にさまざまな利害関係者との協議ということを申し上げましたが、正直申し上げて、この協議という部分が我々の計画立案のプロセスの中で最も弱いところかもしれません。NGOやその他の利害関係者を代表する様々なテーマ毎の作業部会がありますが、こうしたグループはあまり活動的ではありません。地方の意思決定者も余り圧力をかけないので、それほど地元の利害関係者が参加しないのです。まだまだ中央集権の色合いが強いために、地方の利害関係者が参加しません。統合化された沿岸管理というのは、この沿岸及び海洋の管理ということでありますから、さまざまな利害関係者が参加することが必要なのですが、それはまだ実現できていません。
これはフランス語で書かれておりますけれども、こんなパンフレットを作成しています(P.83参照)。「私は海が好きであり、海を尊重している」と書いてあります。これはプレジャーボートのオーナーがサインをしまして、自分は沿岸地域を愛しており、環境破壊に対し関心を持ちます、という意思表示をするものなのですが、まだそれほど多くのオーナーが積極的ではないということを申し上げなければなりません。
以上の活動を通じて、我々は何を実現しようとしているかといいますと、このような沿岸域と流域全体を一つに統合化することで、さらに一歩進めて世界的にも適用できるような、いろいろな国にも適用できるような原則を開発したいと思っています。これはUNEPの地中海行動計画でありますが、概念的枠組み及び計画のためのガイドラインとなっております。ここでは統合化された沿岸地域及び河川流域の管理という言葉、この「及び」「アンド」というところが重要です。考え方としては、沿岸系を言ってみればブラックボックスとしてとらえるわけです。つまり沿岸系の中の自然に関する要素をブラックボックスとみなし、生態系の中のさまざまな機能を考え、まずこれを最初のアプローチとして自然環境のモデル化を行います。そして次のブラックボックスは沿岸系で人間に関わる要素であります。さまざまな活動、さまざまなプレッシャー、こうしたものが沿岸域で発生しているわけですが、これを2つ目のブラックボックスとみなし、この2つのブラックボックスを連携させるというのが基本的な考え方です。