日本財団 図書館


しかし、そこでは、海洋環境に対する予防措置、あるいは予防的アプローチの概念について両当事者の立場が対立したのであります。日本は、この概念が法原則として慣習法化しているという見解に対しては懐疑的な姿勢を示しておりました。結果的には調査漁獲を行うことを差し控えるという判決が下されまして、日本の主張は受け入れられなかったわけでありますけれども、ところが、ことし8月に再度この問題に関して国連海洋法条約に基づく仲裁裁判が行われまして、海洋法裁判所の管轄権はむしろないんだという判決が下されて、日本の主張が認められる結果となって、以前に出されたTACを上回る調査漁獲の禁止を命ずる仮処分というのは無効とされたのであります。

ただ、これによってすべてミナミマグロ問題が解決したかというと全くそうではなくて、調査漁獲の是非だとか、あるいは具体的な実施方法については、3国で構成するミナミマグロ保存委員会で協議するということが決まったにすぎませんで、抜本的な解決はこれからの委員会での協議にゆだねられるということになるわけであります。恐らくこのミナミマグロ保存委員会での協譲結果いかんによっては、日本が当面している捕鯨問題へも影響を及ぼす可能性が十分あると思います。

なお、この問題と関連いたしまして、国連海洋法条約で不明確に残されました経済水域の間を回遊して生活している魚種、あるいは経済水域と公海を回遊しているいわゆるストラドリング魚種とかマグロなどの高度回遊性魚種の保存と管理に関する国際協定が1995年に締結されましたけれども、協定でははっきりと予防措置、予防的アプローチの概念が導入されております。従来、海洋汚染の分野で適用されてきたこの予防的アプローチという概念が、生物資源を含む海洋環境一般に拡大適用されるようになったのであります。

また、この協定に基づく地域的機関の非締約国の漁船による乱獲に対してどのように対処するかの問題も浮上しております。そもそも現在の国際法秩序というのは国家間の合意を基礎として成立しておりますけれども、合意に加わらないで、いわば秩序の枠の外で活動している国に対する規制をどうするかということが、広く海というものを一体としてとらえた場合の規制のあり方と関連して問題になります。

最後に、1982年の国連海洋法条約の膨大な数の諸規則の中には、条約を作成する交渉過程において、コンセンサス方式だとか一括取引だとかいろんな妥協が図られましたために、内容の不明確なものがかなりあります。中には対立する立場が同床異夢的に共存しているというような規定もあります。その意味で、その内容は今後、諸国の国内法を含む国家実行だとか、あるいは先ほど寺島氏が述べられた東南アジアのIMO関連の地域的機関を初めとする各種の国際機関などの策定する協定、決議などを通じて具体的に実現されていくことになります。だから、海の秩序づくりはむしろこれからが正念場であるというふうに言うべきでありまして、海洋法と日本を展望する上において次のような点を指摘しておきたいというふうに思います。

第1に、海洋法は独自の発展を歴史的にも遂げてきた分野でありますけれども、決してそれは孤立した法分野ではなくて、国際法全体の枠組みによって規定づけられております。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION