日本自身は原子力船や危険物運搬船等について領海内における無害通航権を認める立場に立っているようですけれども、それらの船舶の日本領海内通航についても、個別の法令や省令はあるものの、日本の基本的立場を表明した条文というのは見当たりません。核搭載船の通航問題とあわせて我が国が検討すべき点であります。
最後に、領海12海里制を導入することによりまして、実は海上バイオレンス行為の多くは沿岸国の領海内で発生するという事態になりまして、海賊を公海上で発生するものに限定した従来の国際法では、こういったバイオレンス行為による人権や海洋環境への悪影響に適切に対応することができない。そこで、1988年のシージャック防止条約への批准だとか、そのための国内法の整備、あるいは最近のマラッカ・シンガポール海峡や東中国海での日本船の海賊による被害と関連して、関係諸国の協力のもとに対応策を講じる必要があるということであります。
国連海洋法条約体制が始まって、海上交通問題の日本とのかかわり合いがどのようなものであるかというのは、そのほか船舶の構造設備の問題だとか、船員の資格技能の向上問題だとか、あるいは船舶起因汚染の防止だとか、いわゆる不審船問題で露呈した我が国の海の安全保障だとかの問題がありますが、ここでは時間の関係で割愛させていただきます。
他方、海洋の資源、環境の分野において日本に当面する課題、問題というのは非常に多岐にわたる、また、今後もそうなるだろうということが予想されるわけであります。海洋の資源と環境を並べて言いますのは、今日では海の生物資源の問題が海の環境問題と関連づけられて議論するようになったからであります。最近の幾つかの問題を指摘したいというふうに思います。
まず、日韓両国は、国連海洋法条約の排他的経済水域制度に対応させるために、1998年に旧協定にかわって新日韓漁業協定を締結いたしましたが、新しい協定では日韓両国で領有を争っている竹島周辺の海域を両国漁民が操業できる暫定水域として定めておりまして、国連海洋法条約が定める漁業資源の持続可能な利用のための海洋の保全、管理という概念をここに導入したんだというふうに一応の評価が下されております。他方で、この暫定水域の範囲につきましては、両国の主張する中間の範囲で合意に至ったものの、その資源の保護、管理に関しては、海洋法条約で規定する魚種別の漁獲量が明示されておりませんし、したがってまた、漁獲可能量(TAC)を設けて資源の持続的利用を図るという考えが必ずしも十分に反映されていない、そういう問題が残されております。この点については、今後、両国による漁業共同委員会の役割が重要になると思われます。
次に、1997年に日中間で署名され、ことし6月に発効した日中漁業協定では、尖閣諸島の領有権問題が未解決であるために、暫定的に共同管理している日中暫定措置水域の北側の水域における操業条件について合意に至りました。しかし、相手国の操業許可が不要な水域については、乱獲の防止に努めるということが明記されたのみで、総漁獲量の上限は定めておりませんし、また、違反のときに相手国船舶を拿捕できないということなど、かなり緩い規制内容になっております。そのため、日韓漁業問題と同様に、持続可能な資源管理の徹底ということについては課題がまだ残されております。
それから3番目に、日本が約100年ぶりに国際裁判の当事者となったミナミマグロ事件では、昨年、1999年8月に、国際海洋法裁判所、所在地ハンブルグでありますけれども、ここでオーストラリアとニュージーランドの求める日本が行っているミナミマグロ調査漁獲の即時停止等の暫定措置をめぐって審理が行われました。